煩悩ラプソディ
第14章 恋も二度目なら/SA
相葉さんと、どうなりたいって…
そりゃ…その…
「せっくすしたいってことだよね?」
「ぶふっ…!」
気まずくなって口元に運んだココアを盛大に吹いてしまった。
「うあちっ…!あちっ!」
「あぁあぁ、ちょっと」
慌ててスーツに溢れたそれを手で払うと、先生は眉を下げて困ったようにティッシュを寄越した。
そして"ごめんごめん"と苦笑いしながら一緒になって丁寧に拭ってくれる。
急になに言いだすんだこの人は…!
焦った顔で先生を見ると、ずれた眼鏡をクイっと上げながらふにゃっとまた笑った。
「…あたりまえの気持ちだと思うけどなぁ…違う?」
「え…」
「好きな人に触りたい、触ってほしいって気持ち…
分かるけどなぁ俺は」
「……」
「家族だってさ、愛することには変わりないでしょ?」
まるで子どもに話すように、ゆっくりと分かりやすい言葉で紡がれる。
小児科医だからだろうか、それともこの人の持つ独特の雰囲気なのだろうか…
なんだかすごく、心に沁みてくるんだ。
「櫻井さんさぁ…もっと自信持っていんじゃない?」
優しい声でそう言うと、またココアをずずっとひと啜りしてデスクにことりと置いた。
膝に置いていた拳をぎゅっと握りしめる。
「…そうですよね、俺…
踏み出して、いいんですよね…」
俯いてポツリ呟くと、間近の先生が立ち上がった気配がして顔を上げた。
う〜んと唸りながら両手を上げて伸びをして、ふぅと息を吐いてこちらを見下ろす。
「…親子ってやっぱ似るんだね」
デスクに置いていた聴診器を首からかけ、白衣の下のタートルネックを正した。
「…え?潤がなにか?」
「ふふっ、いや…相葉さんに聞いてみて」
"じゃ、今から外来だから"と手をひらひらさせて、ペタペタとサンダルの音を響かせつつ部屋から出て行った。
慌てて立ち上がって、後ろ姿に一礼する。
意味深な言葉を残した大野先生の診察室にぽつんと立ち竦んだ。
…この気持ち、間違ってないんだよな。
伝えても…いいんだよな…?
静かに自問自答して、心の中で強く頷く。
ふと壁掛け時計に目を遣ると出社時刻が迫っていて、慌てて診察室を出て病院をあとにした。