煩悩ラプソディ
第14章 恋も二度目なら/SA
体にかかる重みに意識が浮上する。
いつの間にか一緒に寝てしまっていたようで、俺の胸にぐったりと頭を預けたかず君の寝顔が目に飛び込んできた。
背凭れにしていたソファに横たわる潤を窺い見ると、気持ち良さそうに口を開けて寝ていて。
キッチンからは小気味の良い調理の音と、いい匂いが漂ってきている。
しばらくカウンター越しの雅紀を見つめていると、こちらに気付いたようで水栓レバーを止めてリビングに来た。
「もうできるよ。
翔ちゃんもぐっすり寝てたね」
「あぁ、ごめん。
つい寝ちゃって…」
「ふふ、いいよ。
かず…翔ちゃんのこと”パパ”って」
「うん、びっくりした。
そう呼ぶように言ってたの?」
「ううん、今日初めてだよ、こんな話したのも」
「そっか…
なんかすごい嬉しかったよ…」
微笑みながら目下のかず君の頭を撫でる。
「…俺ら、この子たちの親になったんだもんね」
そう呟く雅紀の視線は、俺の肩越しの潤に注がれていて。
「…守んなきゃね、俺らが」
そっと伸ばされた手は、潤の髪を梳くように優しく動いた。
「翔ちゃん…」
「…ん?」
「…一緒にいようね…」
手を止めてこちらを見た雅紀の目はあの時と同じような色で潤んでいた。
え、この感じは…
その瞳から視線を外せないでいると、顔を傾けながら伏し目がちにゆっくりと近付いてきて…
「…ふぇっくしっ!!」
唇が触れようかとしたその時、胸元のかたまりが大きく震えながらくしゃみをした。
二人して慌てて離れ、恥ずかしさで顔中が熱くなる。
な、何やってんだ俺ら…!
「…あ、翔ちゃん鼻水っ!」
雅紀の声に視線を落とせば胸元にかず君の鼻水がでろんと伸びていて。
俺にティッシュを渡すと、なおも幸せそうに寝息を立てるかず君の鼻をティッシュでごしごしと拭く雅紀。
「あーあ…なんか、ね…」
へへっと照れ笑う雅紀の言わんとしてることは俺も分かってる。
"家族になる"って、こういうことなのかな…。