煩悩ラプソディ
第14章 恋も二度目なら/SA
夕食はかず君の好きなハンバーグと、潤の好きなスパゲティと、俺の好きなポテトサラダだった。
クリスマス振りの、そして…
"家族4人"で初めて囲んだ食卓。
いつもよりだいぶ賑やかで、子どもたちもかなりはしゃいでて。
…あ、そうそう。
かず君がテレビに夢中で、袖にハンバーグのソースをつけちゃって。
雅紀に怒られたあと、捨てられた仔犬みたいな目で俺に助けを求めてきたのには笑ったな。
もくもくとあがる湯気の中、浴槽の縁に頭を預けて寛ぐ。
向かいの潤は、時々ちゃぽんと音を立てながら湯船にアヒルを泳がせている。
こうして親子で風呂に入るなんてことも、俺たちは当たり前にはできない。
少し背が伸びたかな?とか、ちょっと重くなったかな?とか、会う度に少しずつたくましくなっていくその姿にいつも驚かされる。
「潤、あたま洗おっか」
「うん」
洗い場に出て小さな椅子に腰掛ける潤の後ろに回る。
「かけるぞー…お、顔隠さなくていいのか?」
「うん、だいじょうぶ」
振り向いてニカっと笑うとぎゅっと目を瞑って待っている。
前は頭からお湯をかける時、必死に両手で顔を覆っていたのに。
いつの間に克服したんだろ。
そんな小さな成長もほんとに嬉しくて。
心なしか大きくなったような背中を見ながら頭をわしゃわしゃと洗っていると。
「…ねぇパパ、」
振動で揺れている潤の声が小さく届いた。
「んー?」
「…あのね、ぼくね…
ここがいたいの」
"痛い"という言葉に過敏に反応する。
手を止めて窺い見ると、潤が差していたのは心臓のあたりだった。
「えっ、胸が痛いのか…?
いつから?」
「んー…ちょっとまえ」
「大野先生には言ったか?」
「うん」
先生に言ったって…
この間会った時はそんなこと一言も言ってくんなかったぞ…
むしろ爆弾発言しか聞いてねぇし。