煩悩ラプソディ
第14章 恋も二度目なら/SA
「…先生なんか言ってたか?」
「うん、えっとね…
"はつこい"
っていってた」
「…え?」
こちらを見上げながら、なにか思い出すように眉をしかめて潤が答える。
…は、初恋!?
病状の心配をしていたのに、潤の口から出た可愛らしいその言葉に思わず気が抜けたような顔になる。
な、なんだ…
そっかぁ…
要するに"ドキドキする"ってことか。
あ…もしかして前に言ってた「親子って似るんだね」ってやつこのことだったのかも。
大野先生め…
見かけによらず粋な診断してくれるじゃないか。
「パパぁ…なおる?」
潤が不安そうに眉を下げて訊いてくる。
「そうだなぁ…
ちょっと治りにくいかもな」
「え…」
「潤、胸が痛いってどう痛い?」
「んーと…なんか、きゅってなる」
なるほど、そっちか。
きゅんのほうだな。
「ふふっ、大丈夫だよ。
それ悪い病気じゃないから」
「えっ、ほんと?」
未だ不安そうに見上げてくる潤の体を、くるりと前に向かせて洗面器を手に取る。
「…ほんとほんと」
あぁ、潤が初恋だなんて…
いつの間にそんな成長したんだ。
思わず笑みをこぼしながら潤の頭を洗い流していく。
髪を軽く拭いてやって、少し冷えてしまった体を温めようともう一度湯船に浸かった。