煩悩ラプソディ
第14章 恋も二度目なら/SA
「なぁ潤、どんな時にきゅってなる?」
浴槽の縁にアヒルを並べて楽しそうに行進させている潤に訊いてみる。
相手の女の子はどんな子なんだろ…。
「んーとね…」
その時、浴室ドアの向こうから雅紀の声が届いた。
『翔ちゃん、かずも入れてもらっていい?』
すぐ"いいよ"と返事をしようとすると、じゃぶんという音とともに潤が俺の腕にしがみついてきて。
頬を赤くして目を潤ませ、頭をふるふると振っている。
「…ん、どした?」
「だめ…
きゅってなるから…」
そう言って俯いてしまった潤をしばらく見つめた。
……ええぇっ!?
ま、まさか…
潤の初恋の相手って…!
「…翔ちゃん?」
頭をぐるぐると駆け巡る思考を遮るように、遠慮がちな雅紀の声が届く。
「あっ…
あ、ちょっと潤のぼせてるから!
ごめんもう上がるわー!」
わざと大きめの声でそう言いながら、潤の脇を抱えてざぶんと立ち上がる。
「えっ!大丈夫っ…」
突然ガラッと開いたドア。
湯気の向こうの雅紀とばっちり目が合って。
「うあ、ごめんっ!!」
慌てて閉められたドアを前に、潤を抱えて浴槽から片足を出したまま固まる俺。
「…パパおりるー」
足をぷらぷらさせて訴える潤にようやく我にかえる。
「パパ、かおあかい…」
マットに降ろすと、振り向いた潤が俺を見上げながら不思議そうな顔をしていて。
…うん。
パパものぼせたかも…
いろんな意味で…。