煩悩ラプソディ
第2章 僕の目が眩んでるだけ/ON
あ、もうダメだ…
…お前が悪いっ…!
「…なんつってね、じょーだん、」
「シてよ、」
「…え?」
「…シてよ、にの」
自分でもビックリするくらい余裕のない声が出た。
真下のにのは、切羽詰まった俺の顔を見て一瞬固まった。
「は?なに…」
薄く笑ったにのの右腕を取ると、グイッと引き上げて体を起こさせる。
そのまま立ち上がり、唖然とした顔でソファにペタンと座った状態のにのを見下ろす。
「…来いよ」
掴んでいた右腕を引き一歩踏み出すと、引き摺られるような形でにのがソファから降りた。
その時垣間見えたにのの表情は、ワケが分からず混乱しているように映った。
もうダメだ。
もう、止まらない。
早く、早く触れたい。
ーこの熱を、どうにかしたい…!
にのの右手を引っ張りながら楽屋の入口へと歩いていく。
「…あ、智くん?どこ行くの二人で」
台本を読んでいた翔ちゃんが、無言で前を通り過ぎる俺たちに気付き声をかけてきた。
俺はもう周りを気にかける余裕すら無くなっていた。
「ぁ…ちょっと、トイレだからっ」
俺に手を引かれながら翔ちゃんに振り向いて小さくそう言うと、にのはおとなしく後ろをついてきた。
廊下をひたすら無言で歩いていく。
すれ違う局のスタッフさん達が遠慮がちに会釈しながら横目に通り過ぎる。
後ろのにのは、"すみません"とか"お疲れさまです"とか小さく言いながら手を引かれている。
角を曲がりトイレに差し掛かった辺りで、急に握っていた手を振り払われた。