煩悩ラプソディ
第14章 恋も二度目なら/SA
「父ちゃんたちは大人だからいいの」
「そんなのずるいー!おとなずるいー!」
ソファに広げたパズルもお構いなく、かず君が地団駄を踏みだした。
こんなに駄々をこねるかず君を見たのは初めてで。
いつも雅紀の言うことをきちんと聞く、しっかり者の姿しか見たことなかったから。
潤は、そんなかず君をオロオロした顔で見つめている。
すると隣の雅紀が小さく"はぁ"と息を吐いて口を開いた。
「かず…大野先生になんて言われた?
父ちゃんたちの言うこと聞くようにって言われなかったっけ?」
「やだ!ねない!」
「ちゃんと寝なきゃ病気治んなくなるよ?
いいの?」
「やだっ!」
「じゃあ寝よ?ね、潤君も…」
「やだあ!ねないもんっ!」
「…っ、和也っ!」
一際大きな声を出した雅紀に思わず目を見張る。
雅紀がかず君に怒ったのも、初めて見た。
怒鳴られたかず君はみるみるうちに顔が赤くなって、目に涙をいっぱい溜めている。
「…かず、言うこと聞かないなら病院戻ろっか?」
中腰で目線を合わせた雅紀が低く落ち着いた声色でかず君に問いかける。
「っ、やだぁ…」
雅紀の言葉に堰を切ったように溢れ出した涙。
それを小さな手で拭いながら、しゃくり上げて泣きだした。
「…かず」
小さく呼びかけられると、両手をいっぱい伸ばして雅紀に抱っこをせがむ。
抱き上げられ泣きながらぎゅっと首元にしがみつくかず君を見ていると、なんだか居た堪れなくなって。
ふと潤に目を遣ると、なぜか今にも泣きそうな顔で俺をじっと見つめていた。
なんでお前も泣きそうなんだよ…
そんな潤がおかしくて眉を上げながら手を軽く広げてみる。
すると、トトトッとこっちに回ってきて広げた腕に飛びついてきた。