煩悩ラプソディ
第2章 僕の目が眩んでるだけ/ON
ドア横の壁ににのを押しつける。
黒々とした髪を撫でようとしてふいに右手を上げると、ビクッと肩を揺らしてギュッと目を瞑った。
そんな仕草が俺の中のほんの小さな苛虐心を擽る。
構わずそのまま髪を撫でると、また小さく肩を揺らした。
「…目、開けて?」
髪を優しく撫でながらそう言えば、瞑っていた目をおずおずと開けて目線を上げた。
「なんなの…」
不安に潤んだ薄茶色の瞳に俺が映る。
…あぁ、わかった。
いや、わかってたけどわかってないフリしてた。
そうだよ…
俺はコイツが…
たまらなく好きだ。
髪を撫でていた手を肩にかけ、ためらうことなく顔を近づける。
俯き気味なにのの唇に、下から掬うように自分のものを重ねた。
一瞬で広がる柔らかい感触。
夢で見ていた場面が頭の中で重なり、じわじわと体が熱を帯び出す。
けれど、一度重なった唇はすぐに離された。
にのが俺の胸を軽く押して真っ赤な顔で俯いている。
「…なに、すんの…。
アンタ今日、変だって…」
胸を押したまま距離を取ってそう呟くにのは、耳まで赤く染めていた。
「…うん、ごめん…俺さ、変なんだよ…。
なんか、お前見てると…たまんなくなる」
にのに触れられてる胸から心臓の音が伝わってるのが分かる。
俺たぶん、余裕ない顔してんだろうな、今。
「…お前と…こうゆうことしたいって思ってんだよ俺…」
俯くにののつむじにポツリと話しかけると、胸に置いていた両手をゆっくりと握りしめた。
Tシャツにじんわり皺ができる。
…ふるえてる?
俯いたまま握った拳は微かに震えているような気がした。
シャツの袖から伸びる抑揚のない白い腕を見ながら、さっき自分が思いのままにしてしまったことを思い返して急に罪悪感が襲ってきた。