煩悩ラプソディ
第15章 或いはそんな休日/AN
一瞬にして覚醒する視界と思考。
そうだった…!
昨日翔ちゃんたちと一緒に時間決めたんだよ!
やっべ…
完全にチコクだっ…!!
とりあえずバタバタと部屋の中を走り回って、服やらカバンやら回らない頭で必要と思われるものを準備する。
「ゆーたっ!準備っ…」
リビングへと顔を覗かすと、右往左往している俺をよそに優太はリュックを背負って準備万端でテレビを観ていた。
よく見ると、ちょこんと体育座りしている背中のリュックが不自然に膨らんでいて。
チャックが閉まりきれずに何か布のようなものがでろーんと外に出ていた。
「…優太、なにそれ」
「う?これにのちゃんの」
近づいてゆらゆら垂れているその物体を確認すれば、確かに昨日にのが着ていたパーカーだった。
あ。
そういえば昨日にのに抱きついたまま優太が寝ちゃって、着てたパーカーの袖をどうしても離さなくて脱いでもらったんだっけ。
ふふ…その時のにのの納得いかないって顔、今思い出しても笑える。
「ゆうたがかえすの」
そう言ってヘラッと笑う優太につられて思わず笑みがこぼれる。
そうこうしてる間に、時計の針は約束の時間の3分前を示していた。
「やべっ、優太行くよ!」
コートを羽織り、財布とカバンを床から拾って玄関へと急ぐ。
…あ、カバンいらねぇか。
これからの疾走には邪魔になると判断し、リビングのドアを開け適当に投げ入れた。
靴を履き最後に鏡の前でキュっと深く帽子を被り直す。
「おし!優太、いい?」
「うん!」
「よし来い!」
優太を抱き上げると、勢いよくドアを開けて一歩を踏み出した。
少しひんやりする空気と降り注ぐ陽光を体に感じながら、戸締りは抜かりなく。
「よっしゃ、しゅっぱーつ!」
「ぱーつ!」
優太を背中に抱えて、脇目も振らず約束の場所へと続く最寄駅へと駆け出した。