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煩悩ラプソディ

第15章 或いはそんな休日/AN






振り向いて辺りを見回すと先程まで客も疎らだった店内が徐々に活気づき始め、狭い空間には軽快なBGMと賑わう人々の声とが入り混じっていた。


「さっきこの辺に居なかった?」

「ん…多分居たと思うけど…」


周囲の目にも気を配りつつウロウロと店内を歩き回っても、優太ぐらいの年齢の子はおろか子どもは一人も居ない。


人の間を縫っていくら店内を捜しても、小さな子どもの影を捉えることはできなかった。


店の入口辺りで同じように店内を回っていたにのと出くわす。


微かな期待を込めたが、小さく首を横に振り再度店内を見渡すにの。


優太が居なくなったことが次第に現実味を帯びていき、胸騒ぎとよからぬ事態が一瞬脳裏を掠めた。



やばい…
どうしよ…


優太、まさか…



「相葉さん、とりあえず別れて捜そう」


腕を引っ張られて店の外に出ると、にのが俺の顔を覗き込んで小さく息を吐いた。


「大丈夫だって…すぐ見つかるから」


不安を全面に押し出した情けない顔の俺に向かって言い聞かせるようにそう言う。


「じゃ俺こっち行くから、相葉さんあっちね。
見つかったら電話して」


帽子を目深に被り直し"わかった?"と再度確認すると、俺が頷くのを見届けてからにのも小さく頷いて身を反して走り去っていった。



遠ざかる背中をただぼんやりと見送って、俺はその場から動けずにいた。


晴れ渡る空とマッチした、遊園地独特の間抜けで機械的なメロディーが意識の隅で流れる。


昨日思い描いたイメージなんて、ただのひとつも実現できてない。


優太の存在だけで楽しい事が起こりそうだと単純に浮かれてた。


勝手に抱いた独りよがりの期待が、まさかこんな方向に転がるなんて。


幸せな雰囲気に包まれた白昼の広い園内に4歳の優太がひとりぼっちで居ることを思うと、途端に居た堪れない気持ちが募っていく。



いや…
必ずしも園内にいるかなんて確信できない…



高鳴る鼓動と体の奥から滲み出てくるような汗に背中を押されるようにして、漸く一歩を踏み出した。

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