煩悩ラプソディ
第15章 或いはそんな休日/AN
それから随分と走り回ったせいか、さすがに体力も回復力も衰えてき始めて。
息を整えようと木陰の支柱に寄りかかった時、何気なく見た方向に思わず目を見張った。
ゆっ、優太っ…!?
やや前方の機械的にノロノロ動き回る動物の群れ、パンダの背中に跨った後ろ姿。
髪型やサイズ的にもまさしく優太だと確信した途端、安堵より先に体が勝手に動き出していた。
「優太っ!」
叫びながらその小さな肩に手を掛け、振り向くまでがスローモーションのように感じられて。
「う?なあにー?」
しかし、くるりと振り向いた優太はきょとんとした瞳を向けてジッとこちらを見上げてきた。
「…え?」
あまりに予想もしていなかったリアクションに頭が混乱する。
「ぇ…優太、だよね?」
「えー?」
かくんと首を傾ける優太…らしき彼は"優太"というフレーズに全く反応することなく依然こちらを見上げている。
見たところ、どこをどう見ても優太にしか見えなくて。
意味がわからない。
どうゆうこと…!?
小さな肩口を掴んだまま目を点にして見つめるばかりの俺に、持ち主も心地悪そうに身じろいで不穏な眼差しを向ける。
「…あのー、うちの子がなにか…?」
暫くの間のあと後方から窺うように、けれど多少の警戒を込めた口調で男が問いかけてきた。
その声に振り向いたと同時に肩に乗せていた手が空を掻き、すぐにその男の元へ駆けていく小さな彼が視界に入ってくる。
「おとーさぁん!」
「あーはいはい」
催促するように跳ねながら必死に両手を伸ばす彼を、宥めるようにその男が抱き上げる。
"うちの子"、"お父さん"という彼らの言葉にようやく人違いだったと確信させられた。
ぼんやりとその光景を見つめながら、期待が大きかった分なおさらにがっくりと肩を落とす。
なんだ…
優太じゃなかったんだ…
大きな落胆のため息を吐くと、父親の方から未だ不審な眼差しを向けられていることに我に返り急いで弁明をする。
「あ、すみませんでした!
間違っちゃったみたいで…」
「ぁ、いえいえ…」
微妙な距離でペコペコと頭を下げると、その若い父親も反響するように何度か会釈を返した。