煩悩ラプソディ
第15章 或いはそんな休日/AN
「おとーさん、あれー!」
「わかったから、ほら降りろ」
後方のメリーゴーランドを指差してはしゃぐ息子を困り顔で降ろす父親。
「あの…放送とかかけたらいんじゃないっすかね?」
やや遠慮がちにそう提案すると、急かす息子に手を引っ張られながら再度会釈をして去っていった。
去りゆく親子を見送って、突如訪れた脱力感にまたひとつため息を零す。
…それが出来ればこんな苦労してないってば。
その父親の言う通り、園内放送で呼び掛ければきっと見つかる可能性が増すだろう。
だけど…
それが出来ないのがこのプランの最大の罠。
空は次第に茜色に染まり始め、役目を終えようとしている太陽がキラキラとメリーゴーランドを飴色に照らしていた。
優太が見つかったという救いの声も届かない。
ましてや、にのの居場所さえも分からなくなってしまった。
これじゃまるで…俺が迷子じゃんか。
心の中でポツリ呟いた言葉が、今自分が置かれてる状況に当てはまりすぎて不謹慎だと思いつつも笑ってしまった。
なんて情けない…
なんて頼りない男だ、俺は。
時計の側のベンチに力無く腰を下ろし、足元に伸びる影をぼんやりと見つめる。
目の前を通り過ぎていく人々の会話も、全くの他人事のように耳に流れては出て行く。
陽が落ちてきたせいか体に感じる風も冷たさを増し、一層の孤独が押し寄せて。
優太ごめん…
俺、なんも出来ないね…
まだにのが捜し回ってるかもしれないし、もうとっくに見つかってるのかもしれない。
確信を持てない現実が今、どうしようもなく歯痒い。
にの…
どうしたらいい?
俺、どうすればいいの…?
にのの事を考えた途端急に胸が締めつけられて、治まっていた熱いものがこみ上げてきた。
頭を抱えるようにして両腕で顔を覆い、きつく目を閉じて声を殺して泣いた。
今こうしている間にも、優太は一人どこかで泣いているかもしれないのに。
親の迎えを待つ子どものように、俺はこの場から動けずにただ泣くことしかできなかった。