煩悩ラプソディ
第15章 或いはそんな休日/AN
やがて閉園の放送が淑やかに響き渡ると、訪れていた人々もそれに促されるように帰り仕度を始める。
幸せそうに手を繋いで、月並みの感想を言い合うカップル。
なかなか帰ろうとしない子どもを諭し、宥める親子のやり取り。
子どもの声は聞こえてくるけど、その声に反応することも次々にこみ上げてくる涙に阻まれる。
騒々しくうごめいた声の端に、ふと自分の名前を呼ばれたような気がして思わず顔を上げた。
けれど滲む視界には帰ることを許された人々の満たされた表情が映るだけで、今求めている姿はそこにはなかった。
自分自身を抱きしめるように全てを塞ぎ込んで、聞こえるはずのない相手にひたすら助けを求める。
にの…
…もう、やだよ…
にのっ…
「まぁくんっ!」
今度は確かに耳に届いた声に顔を上げたと同時に、勢い良く首にしがみついてきた重みに息が詰まる。
…っ!?
ゆうっ…
「まぁくーん」
ぎゅうっと纏わりつくこの感触は、紛れもないずっとずっと捜し求めていた優太のもので。
「…っ、優太ぁ…」
驚きと安堵ともう何もかもがごちゃ混ぜになって、人目も憚らずに優太を抱きしめて泣きじゃくる。
良かった…
ほんとに良かったぁ…
腕の中の優太は涙声で鼻をすする俺を訝しげに思ったらしく、身を離して顔を覗き込んでくる。
「まぁくん?なかないよー」
心配そうにそう言うと、小さな手の平で涙で濡れた頬をごしごしと擦ってくれた。
ほんとにどっちが迷子なんだか疑う程に、縋るように小さな優太を抱きしめ続けていた。
「あーあ、泣いちゃって…」
前方から聞こえてきた声に再び顔を上げると、ポケットに両手を突っ込んだままこちらに歩いてくる人影が見えた。
「…なにやってんのよ」
「にの…」
呆れたように苦笑いして、肩を竦めながら見下ろして続ける。