煩悩ラプソディ
第15章 或いはそんな休日/AN
「電話は?忘れたの?」
「ぁ…ごめん」
「あなた捜すのが大変だったんだから」
「…ごめんなさい」
バツが悪くなって俯く俺を見つめて、項垂れるように深いため息を吐く。
「…見つかんないかと思ったし。
コイツが見つけたのよ?相葉さん」
チラと優太に視線を移して、またこちらに戻す。
目が合ってしまったけど、にのはそのまま続けた。
「余計な心配かけさせんなよ…。
子どもは一人で十分なの」
真顔でまっすぐにそう言った後に眉を顰めて付け足した言葉は、いつものからかう感じじゃなくて優しくてあったかいトーンだった。
「へへ、ごめん…」
胸の中にやんわりと広がっていく心地を抑えきれず、唇を噛んで照れたように笑うと。
つられてにのも、上目で覗き込むようにしてふふっと笑ってくれた。
辺りはすっかり人の気配が消え、沈み切る直前の夕陽が薄暗さを和らげている。
「…さて、帰りますか」
園内にこだまするお決まりのメロディに後押しされ、身を反しながらにのが口火を切った。
未だ立て膝で目を赤くしている俺に、立ち止まって催促の言葉を投げかけ出口へと歩いていく。
腕から離れにのの元へと駆けて行く優太の後を追うように、力の入らない足腰を震わせて立ち上がった。
どうやら優太は、俺とにのが別れてすぐにトイレで見つかったそうだ。
我慢できなくなって店を飛び出したはいいものの、帰る方向を見失ってトイレの入り口で泣き叫んでいたらしい。
優太が見つかったという報告の電話を何度かけても繋がらなかったので、諦めて優太と園内を回っていたようだった。
隣で窓の外の流れる夜景を眺めながらはしゃぐ優太を挟んで、手摺にぐったり身を預けるようにして寝息を立てるにのを見遣る。