煩悩ラプソディ
第15章 或いはそんな休日/AN
「…どした?怖かった?」
「んーん…あのね、」
悲しそうに目を伏せて、もごもごと口を開いた。
「にのちゃんね、ゆうたいちばんじゃない…」
「ん?」
「にのちゃん…
まぁくんいちばんすきってゆったもん…」
そう言い終わると同時にぶわっと涙が溢れて、嗚咽しながら手で涙を拭いはじめた。
突然の出来事に俺ばかりか車内にちらほらいる客までが驚いてこちらに視線を集める。
焦って反射的に膝の上に抱き上げ、泣きじゃくる優太を宥めた。
…え、なになに?
いちばん好き!?
背中をポンポン叩きながら優太のセリフを頭の中でもう一度繰り返してみて、ようやくその意味が理解できた。
ぎゅっとしがみついて尚も泣き続ける優太に、これ以上聞くことはできないけど。
多分、観覧車の中でにのに訊いたんだろう。
一番好きな人は誰か、って。
…なにも、子どもの期待を裏切らなくてもいいのに。
そういう時は普通、目の前に居る人を答えるんだよ。
ばかじゃん…。
隣で安らかな寝息を立てるにのを一瞥してから、優太の髪をくしゃっと撫でる。
「そう…そっか…」
よしよしと宥めながら、自然に弛まっていく頬を小さい頭に押しつけて目を閉じた。
じわじわと胸の中に広がる温かい想い。
形のないものが、見えたような気がした。
初めから確認なんてする必要なかったのかもね。
探り合わなくても、お互いの答えはずっと変わらないままなんだ。
それでいいんでしょ?
…にの。
いつの間にか、腕の中の優太がすぅすぅと寝息を立て始めていた。
もう一度抱え直してフラつく首を支えながら、体に感じる温もりと胸の中の温かさに埋もれるようにまたゆっくりと目を閉じた。