煩悩ラプソディ
第15章 或いはそんな休日/AN
こうして優太との慌ただしすぎた二日間が幕を閉じた。
結局ほとんど空回ってた俺にとっては、なんのメリットもなかったような気もするけど…。
楽屋のソファの定位置でゲームに興じるにのに、チラッと視線を送る。
まぁ…いっか。
雑誌を手に取り向かいのソファに座ると、一度こちらを見てすぐ画面に視線を落としたにのが口を開いた。
「ぁ、優太ちゃんと送ったの?昨日」
「送ったよ。てかあの後ね、もう泣いて泣いて大変だったんだから」
「え、いつ?」
「電車でよ」
「あ〜寝てたね、俺」
「お前のせいだからね」
「なにが?」
「…いや?」
不思議そうに目を上げたにのに思わず口を噤む。
…あのことは、にのには内緒にしとこ。
優太にだから言ったんだよね、きっと。
それと、みんなにはお土産忘れちゃったけど昨日の俺の大失態を土産話にでもしてごまかすとするかな…。
後ろの入り口の方から声がして、そろそろみんな来たかなと思いながら雑誌を捲る。
すると、ふいに向かいのにのが小さく声を発した。
「…ぁ、優太?」
そのワードに顔を上げると、にのが口を開けたまま入り口を見つめている。
その視線の先を慎重に辿るとそこには…
「にのちゃぁん!」
叫びながら小動物のようにトタトタ走ってきて、お約束になったにのへのダイブをかます。
「…え!?なにっ…」
突然のことに驚いて、意味もなく優太と入り口とを交互に見遣る。
…なんでいるの!?
ハッと目を留めると入り口からスタッフに先導されて、優太の母親…つまりいとこがいそいそと楽屋に入ってきた。
スタッフに深々とお辞儀をして、ソファに向かって歩いてくる。
「ごめんね雅紀、仕事場にまで…」
ぽかんと口を開けたまま見上げる俺に申し訳なさそうに続けた。
「なんかお借りしてたみたいで…」
彼女の視線に目を遣ると、昨日のリュックを背負ってキャッキャとにのの膝の上ではしゃぐ優太が居て。
不自然に膨らんで、例のごとく納まりきれない袖がはみ出たままだった。