煩悩ラプソディ
第2章 僕の目が眩んでるだけ/ON
自分の身に起こってることがあまりに想定外すぎて、思考が全然追いついてこない。
…にのは今、俺のことを"すき"だって言った。
言ったよな?
…俺とこんなことしたいって、思ってたの…?
なんだよ…
これって…
回らない思考の中で分かったことは、
俺たちは所謂"両想い"だということと、
今重なっているにのの唇が、たまらなく心地いいということだけだった。
にのが名残惜しむようにゆっくりと唇を離すと、ふぅと息を吐いた。
「…ね、もっかい…して…」
途切れ途切れに恥ずかしそうにそう呟き、熱っぽく潤ませた瞳をゆっくりと閉ざす。
夢の中で何度も見た光景が目の前でこんなにも鮮やかに映っている。
無防備に目を閉じて従順な子犬のように俺の唇を待つにのが、たまらなく愛おしい。
今度は俺の方が両手でにのの顔を包み優しく撫でる。
ふいの感触に一度目を開けて、恥ずかしそうに微笑んでからまたゆっくりと目を閉じた。
あぁ…やばい。
にの…
心臓の高鳴りと体の熱が上がるのを自覚しながら、それに応えるように顔を傾けてゆっくりと近づいていく。
コンコンーーー、
急に背中からノックの音がした。
唇が触れる寸前だった俺たちは二人して目を見開いて。
「…智くん…?」
ドアの向こうから聞き慣れた声が遠慮がちに聞こえた。
にのが思わず両手で口を覆う。
その顔がみるみる真っ赤になっていく。
…え、なんでっ!?
なんで翔ちゃんがっ!?
どうしよ…!
どうしたらいい…!?
助けを求めるようににのを見ると『なんか言え!』と言うような視線で促してきたので、ゴクリと一度息を呑んでから口を開いた。