煩悩ラプソディ
第2章 僕の目が眩んでるだけ/ON
「…ぁ、翔ちゃん…?」
「…あ、良かったここだった。
どした…?大丈夫なの?」
「…ぁ、ごめん…ちょっと腹が痛くて…」
一応お腹をさすりながら、少し苦しそうに言ってみる。
「マジで?戻れそう…?
もうちょいで打ち合わせ始まるけど」
「あぁ…うん、大丈夫だから…
ごめん、先行ってて」
「そう?…分かった、行ってるわ。
…あ、あとにの見なかった?」
その言葉ににのが肩を揺らす。
依然口を覆ったままで、まるで自分自身の存在を消しているかのように静かに息を潜めている。
「や…見てないけど…居ないの…?」
「うん、まだ戻ってなくてさ。
さっき智くんと出てったから一緒かと思ったけど…
どっかの楽屋かもな」
にのが無言でうんうんと頷いている。
その様子がなんかおかしくて、思わず笑いそうになるのをなんとか堪えた。
「ま、とりあえず戻るわ。
ほんと大丈夫なのね?」
「あ、うん…!だいじょぶ…
ごめん、すぐ行くから」
翔ちゃんの足音がトイレから完全に消えたのを確認して、堪らず息をつく。
にのに目を遣ると、口を塞いでいた両手を離しふぅぅーっと思いっきり息を吐いた。
目が合って、二人して吹き出す。
「…台無しだね、なんか」
「まぁ…こんなとこだし…」
この狭い空間で、大人の男たちが人目に隠れてやましいことをしようとしてるなんて。
そんなことを思うと急激に恥ずかしさが込み上げてきた。
「…行こっか」
「…そぉね」
照れくさくてあからさまにヨソヨソしくなってしまう。
とにかくこの狭い空間から早く出たほうがいい。
トイレから出たところで偶然にのとバッタリ会った、って体にしようと話し合って個室から二人で出た。
篭っていた空気から開放されて呼吸がしやすい気がする。
つくづく、こんなとこで何やってたんだって思ってしまう。