煩悩ラプソディ
第19章 原稿用紙でラブレター/AN
「にのちゃんへ」
3年A組2番 相葉雅紀
にのちゃん。
今から、俺の気持ちを伝えます。
手紙なんて書いたことないから、ヘタクソだけど。
精一杯の思いを、受け取ってください。
まず、にのちゃんのかわいいところを言います。
たくさんあって書ききれないから、ちょっとだけ。
にのちゃんのくしゃみは子犬みたいですごくかわいい。
俺と一緒で、もしかして花粉症?
『違います』
じゃなかったら、風邪引きやすいのかな。
『そんなことないです』
それと、朝ごはんはおかゆだっていうのもかわいい。
俺と一緒で、朝はご飯派なんだね。
『あれは風邪気味だったからです。いつもはメロンパン』
にのちゃんのちょっと高い声もかわいい。
今だから言うけど、俺にのちゃんに名前呼ばれたくて授業中わざと翔ちゃんとしゃべったりしたこともあったんだ。
あの時はうるさくしてごめんなさい。
『やっぱり。そうだと思ってました。櫻井君もいい迷惑です』
あと、図書室で見た寝顔は最高にかわいかったです。
今でも思い出すとドキドキする。
にのちゃんてほんとにいびきかくの?
いつかそのいびき聞いてみたいな。
『恥ずかしいので絶対に嫌です』
だけど、一番かわいいと思うのは、にのちゃんの笑顔です。
初めて笑った顔を見た時、本当に心臓が止まるかと思った。
いつも機嫌悪いのかなって顔してるのに、笑ったらすごくかわいいんだもん。
『私ってそんなに無愛想ですか?自覚ないです』
大ちゃんに、にのちゃんの笑顔を見れるのは俺だけだって言われたのがすごくうれしくて。
どんなこと話したら笑ってくれるかなって、いつも考えてるんだ。
『そんなこと考えてないで、真面目に授業受けなさい』
俺の文章の横に、返事を書くように綴られた赤い文字。
内容はとても可愛らしいなんてものじゃないけど。
その文字だけで棒読みで言ってるにのちゃんが思い浮かぶようで、思わずふふっと笑みをこぼす。