煩悩ラプソディ
第19章 原稿用紙でラブレター/AN
初めてにのちゃんとしゃべった時のこと、俺も覚えてます。
3階の廊下でキョロキョロしてたから声かけたら、図書室を探してたんだったよね。
初めてにのちゃんと正面で向き合って、多分きっと、その時から俺の中で何かが変わってたんだと思う。
それまでは、なんとなく学校に行って、授業受けて、友達としゃべって、っていう毎日だった。
だけど、にのちゃんに会ってからは、学校に行くのがすごく楽しみになったんだ。
授業がある日はめっちゃ嬉しくて。
ずっとにのちゃんのこと見てたの、気付いてたかな?
これって、ひとめぼれってやつだよね。
しつこいくらい話しかけて、めんどくさいヤツって思われてたかもしれないけど、俺にとってはそれが学校に来る意味になったんだ。
にのちゃんのおかげで、俺は変われたんだよ。
本当に、ありがとう。
中央線を跨いだ辺りから綴られたその文章の傍らには、よく見ると所々赤い点がついていて。
何か書こうとして、ペン先だけをつけたような跡。
そのまま目線を左に移すと、文の終わりに赤色が集中していた。
もう少ししたら卒業だから、もうにのちゃんに会えなくなるって思うと、やっぱりいやだ。
だから、この気持ちを伝えようと思いました。
ぶつけてみようって思いました。
にのちゃん。
俺は、にのちゃんが好きです。
誰よりも大好きです。
俺ガキだけど、にのちゃんのこと守れる自信あるよ。
だって、にのちゃんのこと一番知ってるのは俺だもん。
最後に、もう一度言います。
『相葉くん、私もあなたには感謝してます。
私も、いつの日からかこの学校に勤めるのが楽しくなってました。
それは紛れもなく、相葉くんの存在があったからです。
私はずっと、自分を変えたくありませんでした。
怖かったんです。自分じゃなくなりそうで。
だけどあなたに出会って、そんな考えはなくなりました。
自分の気持ちに素直になろうと、あなたが思わせてくれたんです。
だから最後に、私も伝えます。』
三行分ほどの狭いスペースにびっしりと書き綴られた赤い文字。
締めくくられた一文を読み終え、ゆっくりと顔を上げると。
その気配に気付き、にのちゃんも落としていた目線を俺に向けた。