煩悩ラプソディ
第19章 原稿用紙でラブレター/AN
トクトクと高鳴る鼓動が、なぜか今日は心地よくて。
見つめる先の瞳が柔らかく細まりゆっくりと口を開く。
「…相葉くん」
少し高めの穏やかな声が耳に届き、トクンと鼓動が波打った。
「私も…
相葉くんが、好きです…」
まっすぐなその瞳は、潤んで煌めいて。
真っ白いほっぺたと可愛い耳は、あの日と同じようにピンクに染まっている。
ずっと待ち望んでいたその言葉を聞いた途端、無意識に涙が溢れ出してきた。
「…っく、」
「っ、相葉くん?」
そんな俺に驚いたにのちゃんが、近付いてきて顔を覗き込む。
やっと…
やっと俺、にのちゃんと…
込み上げてくる色んな感情が抑えられず、勢い任せに抱き寄せた。
ふいの衝撃に驚きの声をあげ、しばらくして俺の背中にちょんと静かに手が添えられると、ポンポンと優しく背中を撫でてくれた。
あぁ、なんて…
なんて幸せなんだろう。
想いが通じ合うって、こんなに幸せなんだ。
込み上げてくる熱い想いに、俺の体がにのちゃんで満たされていくようで。
もっとそれを感じたくて、そっと体を離した。
メガネの奥の鳶色の瞳は揺れ潤んで、しっかりと俺を映している。
ほのかに染まるほっぺたを両手で包むと、その感触に懐かしさが蘇ると同時にトクトクと胸が高鳴った。
何か言いたげに微かに動こうとする薄い唇を、目線の先に捉えて。
にのちゃん…
「好きだよ…」
呟きとともに、ゆっくり重なった唇。
ずっと触れたくて触れたくて。
沿うように吸い付く柔らかいその感触に、体の芯が震えた。
抑えられなくなる前にそっと唇を離すと、睫毛を揺らしながらゆっくり目を開けて。
「っ…どきどき、しました…」
至近距離で見上げながらそんなこと言うから、危うく衝動に駆られそうになり。
もう、反則だって…
小さく溜息をついた俺をきょとんと見つめる愛しい人に、思わずふふっと笑みをこぼした。
これからは、いつだって傍にいるから。
にのちゃんを笑顔にするために。
だから、とびきりの笑顔は俺だけに見せてね。
そのかわり、俺しか知らないにのちゃんをもっと教えてあげるから。
今日からは…
先生じゃなくて恋人だね、にのちゃん。
end