煩悩ラプソディ
第23章 年上彼氏の攻略法/AN
きゅっと唇を結んだにのちゃんも、伏せていた瞳をこちらに向ける。
メガネ越しに潤んだ視線を寄越され、止めていた息をごくっと呑みこんだ。
「…昨日は、勝手に帰っちゃって…ごめんなさい、」
ぺこっと頭を下げてそう言うと、膝に置いていた拳をぎゅっと握り直す。
「…心配かけたでしょ?電話も、出なくて…」
しんと静かな部屋に、ぽつりぽつりとにのちゃんの声が紡がれて。
俺も伝えたいことはあるけど、今はにのちゃんの言葉をちゃんと聞かきゃと、そう思わせる様な雰囲気が漂っていた。
「…ずっと、ずっとね、考えてたんだ。
…相葉くんのこと、」
ふいに俺の名前が出て顔を上げると、まっすぐこちらを見つめる視線とぶつかる。
「…ずっと考えてるの、もう…ほんとに。
抑えらんないくらい…俺、」
そこまで言って言葉に詰まり、下唇を噛み締める。
にのちゃん…?
今にも泣きそうなのを堪えるようなその様子に、ぎゅっと胸が締め付けられて。
次の言葉を待たずに動き出そうとした時、再び顔を上げたにのちゃんが口を開いた。
「…っ、相葉くんが好きっ…!
…好き、ほんとに…」
真っ赤に染まった顔とはっきりとした声が、俺の視覚と聴覚にダイレクトに伝わって。
…っ、え!?
思いがけないその言葉に、準備していた想いが飛びそうになる。
こんなにまっすぐ、にのちゃんから《好き》って言われるとは思ってなかった。
急な展開にドキドキが止まらない。
だって、こんなに嬉しいことってある?
「…だけど、」
一人静かに高揚していると、肩に力が入ったままのにのちゃんが目線だけを上げ窺うように見つめて続ける。
「…それって、ちゃんと伝わってんのかなって…。
伝え…きれて、ないかもって…」
…え?なにが…?
「こんなに…好きな、気持ち…
相葉くんに、伝えて…なかったから、」
いや、そんなこと…
「…だから、こんな、こんな俺で…
相葉くんはほんとに、いいのかなって…」
…違うよ、
それは俺が…
「相葉くん…俺のこと、」
「っ、待って!」
思わずその先の言葉を遮ってしまった。
というか、その先は言わせてはいけない気がして。