煩悩ラプソディ
第23章 年上彼氏の攻略法/AN
大きな声を上げた俺に驚いて肩を揺らしたにのちゃんが、ぽかんと口を開けてこちらを見つめる。
「俺がっ!俺が、悪いんだ…!」
テーブルに手をついて、身を乗り出すようにして続けた。
「にのちゃんに、気持ちを伝えきれてないのは…
俺のほうなんだ、」
ぎゅっと拳を握ると、対面のにのちゃんは口を結んで居住まいを正し、窺うような眼差しを送ってくる。
「…俺ね、にのちゃんと付き合うようになってからさ…ほんと毎日楽しくて。
今まではさ、ずっと追いかけてきたじゃん。
けどそれが叶って、両想いになって…
なんか、それだけで俺…」
それだけで…
…勝手に、満足しちゃってたんだ、きっと。
「…俺には十分すぎるくらい届いてたよ、にのちゃんの気持ち。
なのに…俺、」
…俺は、なにしてたの?
会えない時間が増えれば増えるほど、ただ不安にさせてただけじゃないの…?
「…ごめんね。こんなに好きなのに…
にのちゃんのこと、こんなに…好きなのにっ…」
言いながら、声が震えてくるのが分かった。
…だめだ、泣いちゃだめだ。
俺が泣いてどうする。
ちゃんとにのちゃんに伝えなきゃだめだろ。
込み上げてくる熱を堪えようとぐっと奥歯を噛み締めた時、しんと静まり返っていた部屋の空気が動いた。
その次の瞬間には、ガタっというテーブルが動く音と体に伝わる軽い衝撃。
にのちゃんが、俺にしがみつくように抱きついていた。
…っ!?
突然の熱と重みに、一気に心臓が跳ね上がって。
肩に顔を伏せて、俺のシャツの胸元をぎゅっと握り締めたままじっと動かない。
…に、のちゃん…?
その肩にそっと触れると、ぴくりと僅かに動かしてゆっくりと顔を上げた。
メガネの奥で潤ませた瞳は、揺れながら俺を見上げる。
前髪に隠れ剥がれかけた冷却シートが火照った顔を物語っていて。
急に訪れたこんな展開に、爆発しそうなほど顔に熱が集まる。
に、にのちゃん…!
や、ば…
「…相葉くん、」
その瞳から目が離せないでいると、にのちゃんがぽつりと俺の名前を呼んだ。