煩悩ラプソディ
第23章 年上彼氏の攻略法/AN
ぎゅっと握られたシャツに皺が寄る。
一度下唇を噛んで一呼吸置いてから、より瞳を揺らしながらその口を開いた。
「…伝わってるから、相葉くんの気持ち…。
大丈夫だから…」
俺にしがみついて今にも崩れてしまいそうな表情をしているのに、伝えてくれたその言葉はしっかりと届いて。
その瞬間、にのちゃんの持つ内に秘めた包容力に触れたような気がした。
じんわりと沁み渡っていく心地に、また違う胸の高鳴りを覚える。
にのちゃん、俺…
絶対、にのちゃんのこと大切にするから。
もう、寂しい思いなんかさせない。
今までよりもっと、伝えるから。
大好きだよって。
離れないでって。
俺だけの、にのちゃんでいてって…
「…にのちゃ、」
「でもね、」
次々に湧き上がってくる想いを今度こそ伝えようとした時、目下のにのちゃんが目を伏せて小さく呟いた。
「…ほんとはもっと、会いたい…」
…え?
「だめ…?」
窺うように見上げるその顔は耳まで赤く染まっていて。
途端に胸がきゅうっと締め付けられて、この距離感に今更我に返る。
至近距離で見上げられた瞳は不安げに揺れ動いて。
今の言葉やこの状況からして、やけに積極的なにのちゃんに心臓が飛び出てしまいそう。
「…俺もっ、にのちゃんと…一緒にいたいよ、」
「…うん、」
「もっと、ずっと…一緒に、いたい…」
じっと見つめてくるその瞳が、一瞬煌めいて。
その輝きに誘われるように、ゆっくりと顔を近付けた。
ーコンコン、
突然聞こえた軽いその音に、唇が触れ合う寸前でピタッと動きが止まる。
『和也、開けていい?』
ドアの向こうから聞こえた声に慌てて体を離すと、真っ赤な顔のにのちゃんと目が合って。
…っ、もうっ…!
染まった頬を包み込み勢い任せにちゅっと口付けて、リュックを掴んで立ち上がった。
「ごめんっ、今日は…帰るねっ」
口を開けて固まったまま俺を見上げるにのちゃんを残し、勢い良くドアを開ける。
「あっ、し、失礼しますっ!」
同じく驚いたお母さんに一礼し、一目散に階段を駆け降りた。
自転車に跨り、二階の部屋の灯りを見上げて。
僅かに残る唇の感触に浸りつつ、ぐっとペダルを踏み込んだ。