煩悩ラプソディ
第23章 年上彼氏の攻略法/AN
斜め向かいで教科書とにらめっこする相葉くんを、どことなく息を潜めて見つめる。
教職課程科目の臨時試験があるから勉強を見てほしいと、今日はバイト終わりで相葉くんがうちにやってきた。
母親も相葉くんのことをすっかり気に入って、来る度に夕ご飯や甘い物などを差し入れてくれて。
そのお陰もあって、気兼ねなく家で会えるようになったことは嬉しいんだけど…
「…ねぇ、ここってどうゆう意味?」
「あ、えっと…」
突然相葉くんが質問を投げてきて、シャーペンの先でその箇所を示しながらぐっと体を寄せてきた。
「…っ!」
その距離の近さに、一瞬で顔が火照り上がる。
少し明るめに染めた髪から漂う爽やかな整髪料の香り。
きれいな線を描く形の良い眉毛と意思の強い澄んだ瞳。
通った鼻筋の先のふっくらした唇に、思わず見惚れてしまって。
「…にのちゃん?」
反応のない俺を訝しげに思って声をかけた相葉くんの首筋に浮かぶ男らしい喉仏にも目を奪われる。
「…っ、ごめん、えっと…」
慌てて教科書に目をやりながら、どんどん高鳴っていく心臓を何とか抑えようと必死だった。
あの日、松本先生から聞かされた言葉がずっと頭の中を巡っていて。
相葉くんに会う度に、その言葉が自分の中で勝手に一人歩きしていくようで。
…相葉くんは、どう思ってるんだろう。
俺と…そうなりたいって、思ってるの?
そんなことばかり考えているせいか、最近やたらと相葉くんの男らしい体つきや整った顔を改めて意識してしまう自分がいた。
「…ぁ、これはサ行変格活用の、」
「にのちゃん、」
なるべく相葉くんを見ないように口を開いた時、ふいに名前を呼ばれて思わず顔を上げてしまって。
「…大丈夫?熱ある?」
不安をたたえた瞳で真っ直ぐにそう言われ、そっと伸びてきた手が前髪を分けておでこに置かれた。
っ…!
突然の温もりに、思わず目をぎゅっと瞑ってしまう。
「あれ?やっぱ熱いよね?」
そして、確かめるように両手で首筋を包み込まれ。
真っ赤な顔を自覚しつつそろりと目を開ければ、心配そうな瞳で俺を覗き込む整った顔がすぐ傍にあって。
近すぎるその距離に増々顔が火照って、聞こえてしまうんじゃないかというほど心臓の音が響いた。