煩悩ラプソディ
第23章 年上彼氏の攻略法/AN
頭上にそびえる不規則に曲線を描く滑車路からは、悲鳴にも似た歓声が降ってくる。
松本先生の言葉で、落ち着いていた"あのこと"が再発してしまって。
明らかに様子がおかしくなった俺を相葉くんが心配して、どこかで休憩しようと提案してくれたんだけど。
「じゃ、行くか相葉!」
「っ、え、あ…」
絶叫系のアトラクションが苦手な櫻井くんと俺を置いて、松本先生は相葉くんを連れてジェットコースターの乗り口へと向かってしまった。
ガシっと肩を組まれて連れられる相葉くんが、ちらちら後ろを振り返って心配そうな顔を向ける。
『大丈夫』の意味を込めて頷いて小さく手を振れば、ほっとしたような顔になって連行されていった。
ジェットコースターの下、取り残された俺たちの間に沈黙が流れる。
見上げると、くらくらしそうな程に高くそびえ立つ鉄骨の骨組み。
ちっとも落ち着かない気持ちと相まって、乗ってもいないのに動悸がしそうになる。
「…よくあんなの乗れるよなぁ」
隣で同じく上を見上げて、独り言のように呟く櫻井くん。
明るく染めた少し長めの横髪から光るピアス、端正な横顔に似合う晒された喉仏。
…櫻井くん、昨日…
じっと見ていると勝手に浮かんでしまう映像を、またふるふると頭を振って散らした。
「…先生、」
地上にいるのに何となく傍にある柵を握って上を見上げていると、櫻井くんが独り言じゃなくて俺に向かって口を開いた。
「…なんか、悩んでることあります?」
櫻井くんは、上を見上げたままそう言って。
えっ…!?
思わぬその言葉に、また脳裏にあの映像が浮かび上がりそうになる。
鼓動が早まるのを悟られまいと何も言えずにいると、こちらを振り向いて窺うような瞳を向けられて。
「雅紀から…聞いたんですけど、」
「…え?」
相葉くん…?
相葉くんが…何を?
言いにくそうにするから益々気になって、先を促すようにじっと櫻井くんを覗き込むと。
「あの…なんか、変なヤツに付き纏われてるって、」
「…え?」
「学校で、変な生徒にストーカーされてんじゃないかって、雅紀が…」
「…ストー、カー…?」
眉根を寄せて不安げにそう言う櫻井くんの言葉に、皆目見当がつかず頭に疑問符しか浮かばない。