煩悩ラプソディ
第4章 もうキスなんてしない/ON
…ごめんね相葉さん、心配かけてさ。
俺も大人げないけどあの人はもっと子どもなんだよ。
「…じゃ、お疲れしたー」
小さくそう言うと、みんなを見ずに楽屋を出た。
潤くんから名前を呼ばれた気がしたけど、聞こえてないフリしてそのまま歩いていく。
…もう、なんなのよ。
明日のオフどうすんだよ…。
久しぶりに大野さんとの飯と、それから久しぶりの…
そう考えていると腹立たしい気持ちは薄れてきて、なんか泣きそうになってきた。
もう…なにやってんの俺。
大野さん…なんでよ…。
「にの!」
聞き慣れた声に後ろから呼ばれて肩を揺らす。
振り返ると、大野さんが廊下を小走りしてきて俺の横に並んだ。
「なに先帰ってんの」
ハァと息をついて、キャップの鍔をクイっと上げながら歩き出す。
俺はそこから動かずに、リュックのショルダーベルトを握りしめて大野さんを睨んだ。
横に居ない俺に気づいたのか立ち止まって振り返る。
「…どした?帰ろうよ」
きょとんとした顔でこちらを見る大野さん。
「…怒ってんでしょ」
「…え?」
「…今日の収録…」
「あ…あぁあれか」
「言っとくけどアレ仕事だからね?
俺だってやりたくてやった訳じゃないから」
キッと睨みながら口を尖らせてそう言うと、大野さんはポカンと口を開けたまま固まっていた。