テキストサイズ

煩悩ラプソディ

第24章 半径3mの幸福論/SA






スーパーの特売日に、仕事が早く終わるなんてラッキーだ。


学童保育にかずと潤を迎えに行くと、嬉しそうに駆け寄ってきたからそのままママチャリで買い物に来た。



昨日、翔ちゃんから『温泉旅行に行こう』と言われて。


思ってもいなかったサプライズに、一気に舞い上がってしまったっけ。


だって、旅行だなんて久しく行ってない。


かずが生まれる前に、前の奥さんと数回行ったきりで。


かずが生まれてからは全くそうゆう気にもならなかったし、家族で旅行なんて不可能だって諦めていたから。


だけど、まさか翔ちゃんと子ども達と"家族旅行"に行ける日が来るなんて。


この春から、子ども達と一緒に生活できるようになっただけでも嬉しいことなのに。


ましてや翔ちゃんと…旅行なんて。


こんな幸せでいいのかな?俺…



緩む頬を自覚しつつ、お肉売り場で夕飯のメニューを考えながら品定めしていると、遠くから聞き覚えのある声が近付いてきた。


「おとー!おとー!はんがくー!」

「おとーさぁん!はんがくー!」


その声に振り向けば、パタパタと足音を鳴らしつつ走ってくる二匹の小動物が。


途端に嫌な予感がして、慌ててその声の元へ駆け寄ると。


「おとーこれっ、はんがくだった!」

「かずっ!しっ!分かったから!」


にこにこしながらハンバーグのお惣菜を片手に走ってきたかずの口を、咄嗟に塞ぐ。


「おとーさんみて!これもはん、」

「潤っ!もう分かったって!」


キラキラの眼差しで、オムライスを手にこちらを見上げてくる潤。


そして『パパがすきなやつあった』と可愛く笑うその姿に、返してこいなんて到底言える筈がなく。


周囲の買い物客にくすくす笑われながら、愛想笑いで会釈を返し。



やっぱこの二人を連れて来たのは間違いだったか…



なんて内心後悔しながら、二人して満面の笑みで笑い合っている姿をじっとりと見つめる。


カゴに入った余計な出費に溜息をこぼした時、足元のかずがまた急に大きな声を上げて。


「あ!おおのせんせぇー!」


その名前にふと顔を上げれば、前方に見慣れたその姿を捉えた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ