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煩悩ラプソディ

第24章 半径3mの幸福論/SA






夕飯の後、仕事を持ち帰っている翔ちゃんに代わり子ども達をお風呂に入れることにした。


湯船の中でも二人の話題は旅行で持ちきりで。


「おんせんってあついよね?ぼくあついのやだなぁ」

「かずくん、だいじょうぶだよ。おみずをざぁってすれば」

「ほんと?じゃあさ、じゅんくんおみずざぁってしてよ」

「いいよ、ぼくがざぁってしたげる」


浴槽の縁に腕を組み仲良く並んで会議をしているのを見遣り、ふふっと笑いながら肩まで浸かり寛ぐ。


天井へともくもく上がる湯気を仰いで、目を閉じて思い描くのは想像の温泉宿。


きれいな緑が広がる中、川のせせらぎと鳥のさえずりが澄み渡る静かな場所で。


部屋には内風呂なんかがあって、そこから眺める景色も絶景に違いないんだ。


みんなでお風呂に入って、美味しいご飯を食べて…



「…ふふっ」


脳内旅行に思わず笑みが零れてしまった俺に、すかさず反応するかず。


「おとーわらってるー。へんなの」


『ねー?』と潤にも同意を求めるその顔に、指先でぱしゃっとお湯を弾く。


「わっ!なにすんだよっ!」

「かずが人の顔見て笑うからさ」

「もうっおとーのばかっ!」

「あ、バカって言ったほうがバカなんですー!」


顔を両手でごしごし擦りつつやり返そうとするから、大人げなく応戦してやる。


キャッキャ言いながらお湯をばしゃばしゃ叩くかずに、隣の潤も加勢して総攻撃を喰らって。


「あははっ!くらえー!」

「いけぇー!」

「うわっ、ちょ!タンマ!ストップ!」


容赦なくお湯を掛けられ頭からずぶ濡れになり、堪らずお手上げポーズを取ると。


そんな俺を面白がって、ざぶんと勢い良くかずが抱き付いてきて、真似して潤も同じように抱き付いてくる。


目下でケラケラ笑い合う二人に、どうしようもない愛おしさが込み上げてきた。


同時に、今度の旅行に更に期待感が高まって。


もっとこの笑顔を見たい。


もっともっと、子ども達を笑顔にしてやりたい。



「…楽しみだね、旅行」


ぽつり穏やかな声をつむじに投げかければ、二人して顔を上げる。


「うん!たのしみー!」

「ぼくも!ママもいけたらいいのになぁ…」



え…?



少し寂しそうにそう言った潤に、掛ける言葉が見つからずに思わず口を噤んでしまった。

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