煩悩ラプソディ
第24章 半径3mの幸福論/SA
運転しつつバックミラーに映る後部座席を窺い見ると、潤とかずは相変わらずゲームに熱中していて。
ひたすら下を向いてよく酔わないな、といつも感心するほど。
時折ぼそぼそと話しながらお互いの画面を覗き込んだりと、至っていつもと同じ表情だ。
「…あとどのくらい?」
ふいに助手席から雅紀の声がして、チラッと隣を見ながら答える。
「ん…あと20分くらいかな」
「…そっか」
そしてまた車窓に流れる景色に視線が戻され、車内には再び静寂が訪れた。
雅紀から背中を押してもらい、亡くなった妻の事を潤に話した。
寝室のベッドに並んで座り、静かにゆっくりと言葉を紡いで。
『ママは、潤のことをいつも話してたよ。
いつだって潤のことを心配してた。
潤が頑張ってたから、ママも最期まで頑張れたんだ。
だから、潤。
ママはずっと潤を見てくれてるから。
だから…一緒に頑張ろうな』
静かにそう言い終えると、潤は唇を噛み締めて泣いていた。
喚いたり泣き叫んだりすることもなく、まるで泣くのを懸命に堪えるようにして。
そんな様子に居た堪れなくなって、俺のほうが堪え切れずに潤を抱き締めたんだ。
するとようやく堰を切った様に泣き出したから、暫く潤を抱き締めたまま二人で泣いていたっけ。
お墓参りと旅行を同じ日にしようと言い出したのも、他でもない雅紀だった。
"家族旅行"の前に、かずも一緒に妻の事を弔わせてほしいと。
それと、雅紀に言われたことがもう一つあって。
『潤もだけど…翔ちゃんも、気持ちの整理しなきゃ』
自分では消化していたつもりだったけど、こうして潤に伝えたことで改めて妻の死を実感させられたのは確かで。
それが思いのほか堪えていたのにも、雅紀の言葉によって気付かされたんだ。
こんなに俺達のことを想ってくれる、優しい雅紀。
その雅紀の優しさを受け継いだ、芯のあるしっかり者のかず。
そんな大切な俺の"家族"を、妻にもきちんと紹介しておきたいという思いが俺の中に芽生えた。
…どうか、分かってほしい。
見守って…くれるよな?