煩悩ラプソディ
第24章 半径3mの幸福論/SA
「ひろーい!すごーい!」
「あっ、じゅんくんみて!おさかな!」
部屋に通されてから、子ども達はずっとはしゃぎっ放しで。
さっきから二人して部屋の中を隅々まで探検して、窓の外の景色にも目を輝かせている。
そんな俺も、この予想以上のサプライズに興奮が収まらない。
だって、俺が思い描いていた温泉宿とぴったりだったんだから。
自然溢れる景色もそう、部屋の風情もそう、おまけに露天の内風呂まであって。
しかもここは離れになっていて、完全に俺達家族だけの空間なんだ。
こんな良い旅館を見つけてくれるなんて、さすが翔ちゃんだよね。
ただ一つ心配なのは、宿泊費のこと。
任せたのは俺だけど、予算とかの話すら翔ちゃんからは全くなかったから。
こんなとこに来てまでそんな野暮なこと聞かないけど、ちょっと心配っていうか…
「雅紀、」
「えっ、あ、なに?」
わいわい言っている子ども達を座椅子に座りぼんやり眺めていると、内線電話を握った翔ちゃんから呼びかけられた。
「夕食、何時にするかって」
「あ、えっと…6時半くらいにする?」
「ん、了解」
俺の答えに短く頷いて、また電話応対をする翔ちゃんを見遣る。
その横顔をこっそり眺めつつ、頭の中でこれからの俺のプランを復習することにした。
実は…今回の旅行で、確かめたいことがあるんだ。
できるかどうか分かんないけど、一か八かの賭けに出ようと思う。
俺達が家族になってからというもの、通常の夫婦のような"営み"は今まで全く無くて。
それは勿論、俺達が"男同士"だっていうことが大きな原因なんだけど。
子ども達と生活する前は、そんなチャンスもゴロゴロ転がっていた筈なのに。
翔ちゃんがたまに俺の部屋に来てくれて、何となくそんな雰囲気になることだってあった。
だけど、なんていうか…
どこか恥ずかしくて、なかなか一歩を踏み出せずにいたんだ。
それにまだ、翔ちゃんの中には奥さんの存在があると思っていたから。
だからこの旅行の前に、翔ちゃんに気持ちの整理をして貰いたかった。
すごい勝手だけど、こんなこと天国の奥さんが知ったら物凄く怒られそうだけど。
でも俺にとっては、それくらい意味を成すことなんだ。
…翔ちゃんと"ひとつになる"ことが。