煩悩ラプソディ
第24章 半径3mの幸福論/SA
だから、確かめたい。
越えなきゃいけない、壁のこと。
男同士の、壁のこと。
翔ちゃんは…
俺を『抱きたい』のか、俺に『抱かれたい』のか。
翔ちゃんの気持ちを確かめないと、これから先へは進めないから。
だから…この解放的で非日常な空間だったら、お互い恥ずかしさも薄れて本音が出せるんじゃないかって。
この旅行中にそれを切り出すタイミングを図るつもり。
…って、もしかして俺ばっかりこんなこと思ってたら超恥ずかしいけどさ。
勝手に赤くなりそうな顔を隠すように湯呑のお茶を啜ると、向かいに座っていた翔ちゃんがふいに口を開いた。
「あのさ…」
その声が思いの外小さくて、凭れていた背中を起こして座り直す。
居住まいを正した俺に気付いた翔ちゃんが、手を振りながら『いや大したことじゃないんだけどさ』と言いながら続ける。
「風呂…って、いつ入る?」
「え?」
「いや、そのさ…夕飯の前に入っとく?
それとも後にする?」
そう小さく呟かれて、考えを巡らせる。
「そうだね…夕飯あとがいいかもね。
かず達また汚しちゃうかもしれないし」
「あぁ…まぁそうだな、」
やけにたどたどしく返事をする翔ちゃんを見つめるけど、全く目が合わない。
なに?どうしたの…?
なにをそんなに…
っ、あっ…!!
その意図が分かって、思わず弾かれたように顔を上げ目を見開くと。
そんな俺を見て一瞬で顔が赤く染まり、また大袈裟に手をぶんぶん振り出した。
「いや違っ!違っ…くはないけど!その、さ…」
翔ちゃんの言わんとしてることが分かるから、こっちまで恥ずかしさが伝染してくる。
赤い顔のまま眉間に皺を寄せた翔ちゃんが、気まずそうに顎をさすりながら目を伏せて呟いた。
「…二人で、入んない?」
そうだと分かっていたものの、実際に言われると途轍もなく恥ずかしくなって。
同時に、翔ちゃんも今回の旅行で少なからずそんな思いを持っていたと知り。
独り善がりじゃなかったことと、俺の確かめたいことを聞けるチャンスもグッと近付いたことにじわじわと嬉しさが込み上げる。
だけどどうしたって照れ臭いから、翔ちゃんの問いには火照った顔でこくんと頷くだけに留めておいた。