煩悩ラプソディ
第24章 半径3mの幸福論/SA
とは言ったものの、子ども達にせがまれ夕飯の前に一度お風呂に入ることになった。
あまり温泉に浸からない方がいいと大野先生には言われてたから、夕飯後の一回だけにしようと思ってたけど。
せっかくの旅行なんだし、家族四人でお風呂に入ることなんて滅多にないことだから。
俺だって、みんなでお風呂に入ることを楽しみにしてたんだ。
なのに翔ちゃんがあんなこと言うから…なんか妙に意識しちゃうじゃん。
子ども達が居るから、絶対変な気にはならないと思うけど…
「わー!すごーい!」
駆けて行った子ども達から感嘆の声が上がる。
露天の内風呂は、俺達だけには勿体ないほど贅沢な空間で。
檜で造られた浴槽には透き通った湧泉がなみなみと注がれ、岩と岩の間から伝うお湯が綺麗な波紋を作る。
それに、整然と編まれた竹の衝立越しには自然いっぱいの景色。
小高い場所にあるここは、目の高さに遮られる物は何も無くて。
まさに解放的、非日常の世界に飛び込んだみたい。
「おとーはやくっ!」
かずに手を引かれて、まずはそれぞれ親子で体を綺麗にする。
時折吹く風がひんやりと肌を撫でるけど、それも露天の醍醐味というもの。
頭から爪先まで洗い上げ、いよいよ子ども達は初めての温泉に足を踏み入れる。
「じゅんくん、おみずよろしくね」
「わかった」
かずが潤に振り向いてそう言うと、水を張った桶を持った潤がこくんと頷いて。
その様子が何とも可愛くて、翔ちゃんも俺も後ろから二人の様子を見守ることにした。
檜の淵に溢れるお湯に、かずがちょんと足を浸けると。
「あっちっ!!」
その熱さに堪らずぴょんと飛び上がり、ぺたんと尻もちをついた。
「かずくんっ!」
「っ!ひゃあっ!」
すかさず潤が桶の水をざばぁっとかずの足にかけると、今度は冷た過ぎて飛び上がり。
「ふはははっ!おい潤!それはダメだろっ!」
「あはは!そんな熱い?かず」
熱さと冷たさが一気に来たかずは、軽いパニック状態で半ベソをかいていて。
「…かずくんごめん、だいじょうぶ?」
そんなかずをオロオロしながら覗き込む潤。
「うん、だいじょうぶ…たすけてくれてありがと」
そう言ってへへっと笑うかずに、今度は潤が逆上せたようにポッと顔を赤らめた。