煩悩ラプソディ
第24章 半径3mの幸福論/SA
それから何度か足を浸けては飛び上がってを繰り返し、ようやく慣れた頃には夕食の時間が押し迫っていた。
元々長くは入れない二人だったから、丁度良かったのかもしれない。
『もう出るよ』と言うと『せっかく入れたのに!』と調子の良い事を言うもんだから、『全部潤のおかげだよ』と突っ込んでおいた。
それにしても…
潤はやっぱり、まだかずのことが好きなのかな。
さっきの潤の様子を目の当たりにして、ふと昔の記憶が蘇った。
あの頃はそれが"恋"だなんて、本人達すら分かってなかっただろうけど。
常に一緒に居るお互いの存在が、友達から兄弟になって、いつしか恋に発展するものなんだろうか。
きっと二人の"初恋"は、あの時だったんだろうな。
かずは潤のこと、あれからどんな風に思ってるんだろうか。
今となっては"家族"という大きなカテゴリーになってるけど、それが例え友達のような兄弟のような存在であったとしても。
かずには、潤はかけがえのない大切な存在であってほしい。
これからもずっと、守って守られて。
そんな存在で居てくれたら…父ちゃん凄く嬉しいな。
わしゃわしゃとかずの髪を拭きながら、心の中でぽつりとそう投げかけてみた。
「雅紀、浴衣出しとくから、」
「あ、ありが…」
声のした方に振り向くと、思わず動かしていた手が止まった。
浴衣を着た翔ちゃんを目の前にして、その姿に急に心臓が早まる。
濃紺のシンプルな浴衣だけど、しっくりハマっていて凄くカッコ良くて。
「代わるから早く着ろよ。風邪引くぞ」
未だ肌着と下着姿の俺に近付いてきて、手元のバスタオルを取り上げられ。
言われた通り浴衣に袖を通して、どきどきしながらチラリ翔ちゃんを見る。
すると目が合って、今度は翔ちゃんの手の動きが止まって。
何か言いたげに口を動かしたけど、すぐ赤くなってふいっと目を逸らされた。
そんな翔ちゃんの仕草に、また恥ずかしさが伝染してくる。
なんか俺達って、どこまでもウブだよね…。
だからここまで何も無く過ごしてきたんだけど。
自覚してるだけいいってことにしとこう。
…でもそれも、今日から変えてやるんだ。
今日を境に、俺達はきっと踏み出せるはず。
そうだよね?
…翔ちゃん。