煩悩ラプソディ
第24章 半径3mの幸福論/SA
夕食はそれはそれは豪華なものだった。
今回の旅の計画を全面的に任せてもらい、宿を決める段階から慎重に吟味してたから。
食事と風呂に関しては特にこだわって、絞り込んだ中では最良のこの旅館に落ち着いた。
夕食の場所は離れの中の別室で、ここも俺達だけの特別な空間。
雅紀も子ども達も、事あるごとに一つ一つリアクションしてくれるのが凄く嬉しくて。
お腹も心も満たされて部屋に戻ってくると、布団がきれいに敷かれていてまたも感嘆の声が上がる。
「わー、ぼくここっ!」
「えー、じゃあぼくここっ!」
潤とかずがごろごろと布団に転がりながら、自分の場所を主張しだして。
「おとーはねぇ、ここっ!」
かずがぼすっと叩いたのは、端っこの布団。
『で、パパはあっちー』と言いながら、反対側の端っこまでごろごろ転がっていく。
二人してきゃあきゃあ言いながら転がるのを見つめつつ、勝手に決められた寝床に若干肩を落とす。
端と端って…
まぁ、雅紀と隣にはさせてくんねぇか。
「翔ちゃん、ちょっと飲まない?」
内心ぼやいていたところに、雅紀が冷蔵庫から缶ビールを取り出して差し出してくる。
「ねぇぼくたちにもあるよねー?」
言いながら雅紀に駆け寄るかずが、ジュースを手渡され嬉しそうに笑顔を向けた。
飲み物やおやつ類は、道中に調達していたもの。
旅館のは何でも高いから自分達で準備していこうと、何日も前から雅紀に提案されていた。
そんな倹約なところが頼りになるというか、やっぱり母親的な存在なのかなと思ったりして。
居間の布団の上で未だはしゃぐ子ども達を眺めつつ、窓際の籐の椅子に向かい合って座る。
浴衣にグレーの丹前を羽織った雅紀は、いつにも増してカッコ良くて色っぽい。
俺も同じものを着てるけど、スタイルの良い雅紀には十分過ぎる程に似合っていて。
袖を気にしながら『乾杯』と笑顔でビールを近付けてくるその顔に、とくとくと心臓が高鳴るのが分かった。
ビールをくいっと煽れば、同じタイミングでぷはぁ~と息を漏らす。
ふふっと笑い合い、背凭れに深く体を預けた雅紀が子ども達に視線を向けたまま口を開いた。