煩悩ラプソディ
第24章 半径3mの幸福論/SA
「翔ちゃんはさ…知ってる?」
ぽつり呟くように発したその言葉に、もう一度ごくりと息を呑んだ。
「男同士のさ…」
ひたすら目を伏せたままだけど、視線は忙しなく動いているのが分かる。
その口が言わんとしていることを悟り、思わずこくんと首を縦に振ると。
ちらっと俺を見た雅紀の瞳が潤み、また下唇をぎゅっと噛んで続ける。
「こんなこと言うのすごい恥ずかしいんだけどさ…
俺ね…練習、してたの…」
「…え?」
…練習?
って…なんの?
訊き返した俺に、雅紀はますます顔を赤らめて顔を伏せてしまい。
「…雅紀?」
「翔ちゃんからっ…どっちを言われても、良いように…」
遮るように放たれた言葉は、語尾が小さくなっていく。
え、それって…
雅紀、自分でっ…!?
その意味が分かり、驚きのあまり目を見開いてしまった。
同時に、そんなことまでしていた雅紀に言い表せない感情が込み上げてくる。
俺の為にそこまで…
じわじわと沸き立つ昂りに、また体中の血がざわめく感覚に襲われて。
未だ下を向いたままの雅紀の頬にそっと触れれば、ぴくっと肩を揺らして顔を上げた。
「…ごめんな、俺なにも、」
「違うの!違うから…。
俺が、そうしたかったの…」
『準備しときたかったの』と、小さく付け足したその瞳は、今にも零れそうな水分を纏って煌めいていて。
顔を傾けてゆっくりと近付いてきた雅紀から、しっとりとしたキスをされる。
突然の雅紀からのキスに驚きつつ、唇が離されると色気を帯びた瞳が揺らいで俺を捉えた。
「…一緒に、準備しよ?」
鼻先でそう囁かれ、一気に心臓が波打つように早まる。
準備…
つ、ついにっ…俺…、
辺りの静けさに反して、聞こえてしまうんじゃないかという程に響いてくる鼓動。
こんな俺の動揺は、雅紀にもバレてるんじゃないか…?
でも、今はそんなこと気にしてられない。
雅紀とひとつになる為には、どうしたって。
…どうしたって、越えなきゃなんねぇんだから。
「これしかないね…」
言いながら徐に伸ばした雅紀の手の中には、備え付けてあったボディソープのボトル。
コトっと傍に置かれれば、向かい合ったままの雅紀と目が合って急激に胸が高鳴った。