煩悩ラプソディ
第24章 半径3mの幸福論/SA
ふっと目を伏せて、雅紀がボディソープを手に取り。
「…手、貸して」
手の平を向けられ、言われるがままに右手を差し出した。
そこに垂らされた液体がやけに冷たくて、指先にまで火照りを感じていると知らされる。
俺の手に添えるように当てられた雅紀の手もまた、同じく熱を持っていて。
たっぷりと手の平に注がれた液体。
そのとろっとした感触に、これからいつもと違う使い方をするんだと思うとやけに緊張してきた。
ふうっと息を吐いた雅紀と目が合い、ぎこちない笑みを向けられる。
そしてそろりと体を動かして、俺の前で立て膝の姿勢になった雅紀。
目を上げれば、薄暗がりでも分かる程に頬を上気させ、切なげに潤んだ瞳で見下ろされ。
その瞳が揺れながら『大丈夫?』と言っているみたいで、何も言われてないのにこくんと頷いた。
それを受けて、俺の手を取りそっと導かれたそこは。
雅紀以外、誰も触れたことのない場所。
立てている左足の間を割って潜らせるように導かれたそこに触れ、全神経がその指に集中した。
ここが…
雅紀と繋がる場所…。
無自覚にごくっと喉が鳴り、同時に雅紀を見上げる。
すると、優しく俺の手首を掴んで導いていた雅紀の手が、滑つく人差し指を捕えて。
「…いいよ、翔ちゃん」
ぽつり呟くと、堅く閉ざされたそこに俺の指をぐっと押し当てた。
「…っ、まさ、」
「大丈夫っ…大丈夫だから…」
思わず引こうとした指を制止され、潤んだ瞳が間近で揺れている。
「練習…したんだから、大丈夫…」
無理矢理張り付けた笑みと、ひたすらに溢す『大丈夫』は、きっと俺を安心させる為でしかなくて。
そんな雅紀の想いに、きゅっと胸が苦しくなる。
と同時に、居た堪れなさが急激に込み上げてきて。
いくら自分で拓いてみたとは言え、他人のそれとはまた感覚も違うんじゃないか。
想像を絶する未知の感覚と、痛みを伴うはずのその行為を。
俺は本当に、雅紀にできるのか…?
一瞬で考えを巡らせた俺を見て、雅紀が見透かしたように再び指を添えて押し込もうとする。
「っ、待って、雅紀っ…」
「なんで?なんでそんなこと言うの…?」
導かれた手はそのままに、掠れた声でそう投げかける雅紀の瞳はゆらゆらと揺れていた。