煩悩ラプソディ
第24章 半径3mの幸福論/SA
「いや、その…」
揺れるその瞳を見ていられなくて、思わず目を伏せる。
…雅紀を心配してるつもりで、本当は自分が一番不安なくせに。
先へと進みたい欲望と、それを目前にして怖気づいた様にブレーキがかかってしまった思考。
こんなにも臆病な自分がいたことに、心底情けなくなって。
…なにやってんだよ、俺は。
さざ波の様に時折溢れてくるお湯をただ見つめていると、ふいに掴まれていた手首が引き寄せられ。
ぐらっと体が傾いたと思ったら、物凄い力で引っ張られた。
えっ…!?
ばしゃん、という大きな水音と同時に、再び包まれた熱過ぎるお湯の感覚に心臓が跳ね上がる。
熱過ぎるのは、お湯だけじゃない。
半ば引き摺られて入った浴槽で、雅紀がしがみ付くように俺に抱き着いていて。
跳ねたお湯が襟足からぽたぽたと落ちるのが視界に入り、完全に密着したその体が一瞬で火照った熱を伝えてくる。
「っ、雅紀っ…」
「いいってばっ…俺が、いいって言ってんだから…」
ぎゅっと腕に力を込めながら、絞り出された声。
「…余計なこと、考えないでよ…」
語尾が震えているのは、気のせいなんかじゃなくて。
ふっと腕が緩められて体が離されると、回された腕はそのままに至近距離で見つめられる。
「翔ちゃんと…ひとつになりたいんだよ…」
潤んだ瞳に訴えかけられ、その瞬間俺の中でぐっと決意が固まったような気がした。
雅紀はとっくに覚悟を決めてる。
不安で仕方ないのはどう考えたって雅紀の方なのに、俺が堪えられないでどうする。
そうだよ…
余計なこと考えてないで、目の前の雅紀のことだけ考えればいいんだ。
「うん、俺も…雅紀とひとつになりたい…」
真っ直ぐに見つめ返して答えれば、雅紀の瞳に一層水分が増してゆく。
正面から跨った形で抱き着いている雅紀が、少し腰を浮かせたのを合図に再び右手をその場所に潜らせる。
たっぷりと纏わせていたボディソープが、水面下で更に滑りを上げ。
馴染ませる様に入口を探りつつ見上げると、回していた腕を首に巻き付けた雅紀に熱を帯びた視線で見下ろされた。