
煩悩ラプソディ
第24章 半径3mの幸福論/SA
フロントから水枕を借りて、ようやく雅紀の体温が正常に戻りつつあった。
あれからバタバタと動き回っていると、子ども達が目を覚まし。
雅紀のただならぬ様子に驚いたかずに『おとーがしんじゃう!』と泣かれた時は心底申し訳なくなった。
布団に横たわる雅紀を囲むようにして、潤とかずが心配そうな眼差しを送る。
おでこのタオルを取り替えようと外した時、唸りながら雅紀がゆっくりと目を開けた。
「…あ!おとー!だいじょうぶ…?」
ぼんやり瞬きをしながら、声のした方に視線を向ける雅紀。
「ん…かず、」
「おとー…しんじゃやだぁ…」
目を開けたことに安心したのか、涙声で雅紀の胸にしがみつくかず。
隣の潤も、かずにつられて瞳がうるうるとしだして。
タオルをぎゅっと絞りつつ、そんな子ども達のリアクションに心の中で土下座したくなった。
…この状況を作り出してしまった原因は、口が裂けても言えない。
チラリ雅紀に目を遣れば、胸元のかずの頭をよしよしと撫でながらぼんやり俺に視線を合わせて。
目が合うと、困ったように眉を下げて笑った。
「…だ、大丈夫か?」
「ん…ごめん」
掠れた声でそう言う雅紀の頬が、またほんのり上気している。
その『ごめん』には、色んな意味合いがあるような気がして。
"倒れてごめん"とか"俺だけでごめん"とか…
だけど…
いやいや、謝るのはどう考えたって俺のほう。
歯止めが利かなくなって、調子に乗ったのがいけなかった。
というか俺…
"雅紀を抱きたい"とか言っといて、何の準備もしてなかったじゃねぇか。
気持ちだけが逸って、まるでガキががっつくみたいに。
そのくせ、肝心な時にはビビってグラついたりなんかして…
「おとー…?」
未だぐずぐず鼻を鳴らしているかずが、何も言わない雅紀の顔を覗き込む。
「だいじょうぶ…?」
「うん…大丈夫。ごめんな?心配かけて」
かずの鼻を摘まんで微笑みかけた雅紀に、潤もぎゅっとしがみついて。
「おとーさんっ…しんじゃやだからねっ…」
今にも零れそうな涙を堪えながら懇願するように縋る潤を前に、もう完全に頭が上がらない状態になった。
潤、かず、雅紀…
もう、ほんっとにごめんっ…!!
