煩悩ラプソディ
第24章 半径3mの幸福論/SA
「櫻井さんはさ、挿れるの?受けるの?どっち?」
「…なっ!?」
まあまあのトーンで発せられたその言葉に、慌てて周りをキョロキョロと窺う。
「大丈夫、札かけてるから」
『俺いま居ないことになってるから』と悪びれなく言い切る姿に唖然とする。
大丈夫なのかこの先生は…
つぅか今なに訊かれた!?
「どうなの?」
デスクの上に並べられたぬいぐるみの中から、茶色いクマと白いウサギを手に取りながら続ける。
「相葉さんとこうなったんでしょ?」
そう言うと、クマとウサギを向かい合わせてちゅっとキスをさせて。
「いやっ、先生あの…」
「で?櫻井さんはこう?それともこっち?」
俺の制止には全く耳を貸さず、クマとウサギの体勢を入れ替えながら楽しそうに戯れさせている。
本来こんな会話に使われることなどないぬいぐるみ達が、不憫でならない。
これ以上エスカレートすると、この先生は何をしでかすか分からないから。
赤くなる顔を隠すように俯いて、顎を撫でながらぽつり呟いた。
「…ほうです、」
「ん?なに?」
「…んです、俺が」
「えっ、なに?」
「…く、ほうで…」
「え?マジで聞こえな、」
「…っ、抱くんだよ俺がっ!」
思わず大きな声を出してしまいハッとして口を覆う。
…が、時すでに遅し。
「…櫻井さん、ここ病院なんで静かにしてくださいねぇ」
鼻をぴくぴくさせながら笑いを堪える先生が、白々しく言いつつぬいぐるみを元へと戻す。
恥ずかしくて顔から火が出そうな俺の耳に、ぼそっと笑い声が届いて。
「…ふふっ、そうなんだ。うん、そっかそっか」
意味あり気に頷く頬杖をついた横顔は、またも楽しそうに緩んでいる。
「良かったね、とりあえずそっちで」
「…は?」
「いやだってさ、受ける方とか無理でしょ?櫻井さんは」
頬杖をついたままこちらを見る瞳に、全てを見透かされているみたいで。
「じゃあ…教えてあげよっか?受ける方も」
キィっと椅子の軋む音がして、前屈みになった先生の顔が急に目の前に現れる。
…はっ!?
「あはは!ほんと面白いよね、櫻井さんは」
背凭れに帰りながらふにゃりと笑う先生に、無駄な動悸を覚えた。
…この人の発言はいちいち心臓に悪いんだよっ!