煩悩ラプソディ
第24章 半径3mの幸福論/SA
首を擡げて凝り固まった肩を回しながら、ふと壁掛け時計に目を遣る。
そろそろお迎えの時間だ。
手早く資料をまとめ上げて部長に報告書を上げたら、今日はもう終わりにしよう。
家族旅行から数日経ち、また俺達にいつもの日常が帰ってきた。
あの夢のような一夜は、今でも鮮明に覚えていて。
沸き上がってくる熱と、燃えるように火照った体の感覚。
艶を帯びた低めの声で、煽るように囁かれて。
そして翔ちゃんの手で俺は二回も…
最後はもう何がなんだか分からなくなってて、気付いたら布団に寝かされてたんだ。
心配そうに俺を見るかずや潤、翔ちゃんの顔を見てやっと逆上せてしまったんだって理解して。
あの時…
翔ちゃんの気持ちを確かめられて嬉しかった。
どんな答えだって、翔ちゃんの全てを受け入れようと心に決めていたから。
その為に…色々準備だってしてきてたのに。
それなのに…
初めて翔ちゃんに触られて、今までにない感覚に襲われた。
頭の中で何度も想像してたことが、一瞬で実感となって体を駆け巡っていったんだ。
翔ちゃんとひとつになりたい、その気持ちを思うままにぶつけてしまって。
一人で気持ち良くなって、逆上せちゃって…
情けねぇな、俺…。
挙句の果てにかずと潤には『死なないで』って大泣きされたんだ。
もう…何やってんだろ、ほんと…。
はぁっと一つ溜息を溢してから、背筋を伸ばして気合いを入れ直す。
再びパソコンに向き合おうとしたところに、机上のスマホが小さく震えた。
画面をチラッと見ると、翔ちゃんからで。
通知画面に書かれたその文に、一瞬で目を奪われた。
『かずが緊急搬送された。今は落ち着いてるから安心して。』
えっ…!?
思わずスマホを手に取り、画面をスワイプする。
書かれていたのは、通知メッセージの文面の後に『病院にいるから、雅紀も終わったら来てくれ』と付け足された文字。
いやな汗が額に滲んできて、心臓がどくどくと早鐘を打つ。
翔ちゃんには仕事が終わってからと言われたけど、とてもじゃないけどそんなことできる心理状態じゃない。
緊急搬送って…
なにがあった?
かずっ…!
居ても立ってもいられず、部長に事情を話すと足早に会社を後にした。