煩悩ラプソディ
第24章 半径3mの幸福論/SA
いつもの様に慌ただしい一日の始まり。
「いってきまーすっ!」
「パパーあとでねー!」
一つ違うのは、今日はこのあと授業参観が控えていること。
ママチャリの前後に乗せたかずと潤は、毎度の様に駅へ向かう翔ちゃんに手を振り。
「気をつけて」
「うん、雅紀も」
頷き合って別れ、ぐっとペダルを踏み込んだ。
かずは翌日には退院することができ、今回は大事に至らずに済んだ。
退院する時に大野先生から『今度は俺も温泉連れてって』なんて冗談を言われたけど、たまに先生の発言は本気か冗談か分からないから困る。
それと、授業参観のことは翔ちゃんも潤からのプリントで知っていて。
休みを取ろうかと二人で話し合ったけど、俺も翔ちゃんも朝イチで取引先へ出向く予定が入っていたから。
その仕事が終わり次第、それぞれで向かおうということになった。
昨日の晩酌中、何だか緊張していた俺に気付いた翔ちゃんに指摘され、胸中を溢してしまって。
『親としてさ…成長できてんのかなって思ったんだよね…』
『んー…まぁな。けど俺達も少しずつ育てられてんじゃねぇの?子ども達にさ」
『うん…そうだね』
『ふはっ、もう泣きそうじゃん。明日まで我慢しろよ』
『ふふっ、明日も泣かないよ。かずに怒られる』
『だな。教室の後ろでおっさん二人が啜り泣いてたら怖ぇよな』
『くふふっ、超引くよね』
なんて会話を繰り広げたけど、そうならないようにほんと気をつけなきゃ。
子ども達を学校に送り、その足で出社し商用車で取引先へ向かう。
仕事中もなんだか気が漫ろで、取引先の担当の人に若干心配される程ソワソワしてしまって。
予定より少し長引いてしまったけど、無事に打ち合わせを終えて急いで会社に戻った。
よし、帰ろう!
翔ちゃんは大事な商談があるって言ってたけど…
大丈夫だったかな?
部長に挨拶をして退社しようとした時、事務員の女の子から内線電話が入っていると呼び止められ。
先程の取引先からと言うことで、何かミスをしてしまったんじゃないかとすぐに電話を取る。
焦る気持ちとは裏腹に悠長に話す電話口の相手に内心イラつきつつも、単なる確認事項だった事に胸を撫で下ろし。
気付けば授業開始時間に迫っていて、再び部長に挨拶して退社した。