煩悩ラプソディ
第24章 半径3mの幸福論/SA
少し前を歩く小さな二つの背中。
大きなランドセルに付けた鈴のストラップが、リンリンと寂しげに響く。
隣を歩く雅紀を窺い見れば、あからさまに沈んだ表情で黙って自転車を押していた。
結局、俺も雅紀も授業参観には間に合わなかった。
予定より随分商談が長引いて、雅紀に連絡する時間もなく。
急いで向かったものの、ようやく教室に入った時には授業終了の5分前だった。
駆け込んだ俺に驚いた顔をした雅紀だったけど、後から聞いたら雅紀もほんの少し前に着いていたらしく。
同じクラスの潤とかずは、俺達が来るのを心待ちにしていたんだと思う。
後ろに気配を感じる度に二人して振り返っていました、と帰り際に担任の先生に苦笑いと共に告げられた。
その後は授業があるからと保護者は帰ることになり、声を掛けようと潤とかずに近付くと二人して教室を出て行って。
学童保育には預けず、雅紀と一緒に学校へ迎えに行って今は帰路に着く途中。
…ごめんな、潤。かず。
今までも、必要な時に傍に居てやれなかった。
寂しい思いばかりさせてきた。
今日だって、教室には他の子達の母親がたくさん参観していた。
潤やかずに、母親がいたら。
俺達じゃなくて、ちゃんと傍に居てやれる母親がいたなら。
…もっと、この子達は幸せなんだろうか。
そんな想いが脳裏を掠める。
マイナス思考極まりないけど、いつだって頭の片隅にあるものはそう簡単には拭えない。
カラカラと音を立てる自転車の音と、子ども達のリンリンという鈴の音だけが静かな住宅街に響いて。
空は茜色に染まり薄雲がたなびいていて、沈もうかとしている夕陽がぼんやりとアスファルトに影を落とす。
「かずー、じゅーん」
すると、押し黙っていた雅紀が、ふいに前を歩く二人に声を掛けた。
足を止めて同時に振り返る、潤とかず。
カラカラと自転車を押してかずの横に並び、そのまま歩き出す。
「今日の晩ご飯なんにしよっか」
張り付けた様な笑顔で微笑みかける雅紀に、見上げたかずが口を尖らせて。
「…べつになんでもいい」
ぼそっと呟いてぷいっとそっぽを向いてしまい、隣の潤もかずと同じく口を尖らせる。