煩悩ラプソディ
第24章 半径3mの幸福論/SA
「…じゃあ、ハンバーグとコロッケは?」
窺う様に二人を覗き込みながら続ければ、ぴくっと肩が揺れて。
「…いいけど。じゅんくんは?」
「うん…いいけど」
未だ口を尖らせてはいるものの、やっと口をきいてくれたことに雅紀は安堵の表情で二人を見ていた。
…あ、そうだ。
潤の横に並ぶように足を進め、また黙ってしまった二人に投げかける。
「…今から、授業参観するか?」
その俺の問いかけに、ほぼ同時にこちらを見上げる潤とかず、それに雅紀の視線も感じて。
「パパ達もな、潤とかずの授業参観楽しみにしてたんだよ。
今日は…間に合わなくてごめんな?」
そう言うと、ぴたっと足を止めたかずに合わせて潤も足を止める。
二人の正面に回り込み、しゃがんで目線を合わせて続けた。
「授業参観…俺達だけの。な?」
微笑みかければ、潤とかずがそろそろと顔を見合わせて。
それからかずが雅紀の方を見上げると、キラキラした瞳を細めて笑っていた。
***
夕飯は宣言通りのハンバーグとコロッケで、満たされたお腹に子ども達も随分機嫌が直ってるみたいで。
ごろごろとリビングに転がってゲームを始めようとする子ども達に、ダイニングから呼びかけた。
「おーい、授業始まるぞー」
口元に両手を添えて大きな声でそう告げれば、二人とも笑いながら起き上がって。
キッチンで片付けを終えた雅紀も、エプロンを脱いでリビングへとやってくる。
『じゅんびする!』とリビングを出て行った子ども達がバタバタと帰ってくると、その手には一枚の用紙が。
そう。
今回の授業参観は、作文発表だったんだ。
しかも題材は《家族》で。
今まで、面と向かって子ども達から気持ちを伝えられたことなんてなかったから。
だから、この作文は子ども達の想いなんだ。
それを、ちゃんと子ども達の口から聞きたかったんだ。
ソファに座る俺と雅紀の前に二人並んで立ち、恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべる。
「じゃあ…出席番号順な。相葉和也くん!」
「はいっ」
先生を真似てそう呼ぶと、はにかみながら大きな声でかずが返事をした。