煩悩ラプソディ
第24章 半径3mの幸福論/SA
最後まで読み終えると、顔の前に掲げていた用紙を下げたかず。
「あっ、おとーまたないてるっ!」
すぐに雅紀の異変に気付き、笑いながら雅紀に抱き着いてきて。
隣の雅紀は、かずが読み始めて早々に鼻を啜りだし。
なんとか嗚咽を我慢したようだけど、両手で目を覆って息を吐きながら天井を仰いでいて。
そのまま堪えるように動かない雅紀に、かずが膝の上に跨ってその顔を窺おうとする。
「…おとー?」
「へへっ…かず、ありがとね」
「えー?」
「ふふっ、ありがと…かず」
泣き笑いながらぎゅっと抱き締める雅紀に、かずも擽ったそうに身を捩った。
かずの想いに、俺も相当込み上げるものがあった。
かずにとって、俺達はちゃんと"家族"だったんだ。
そのことに触れられて、どうしようもなく嬉しくなって。
雅紀は実の父親だから、勿論"家族"なのは当たり前なんだけど。
俺や潤は、かずにとってどんな存在なんだろうと思うことはよくあった。
俺や潤が雅紀とかずを必要としたから、こうして"家族"になったから。
俺や潤だけの想いじゃなかったってこと、凄く分かった様な気がした。
それに、かずは潤のことを大切に想ってくれてるのも感じて。
『ずっと一緒にいたい』と思ってくれてるなんて…
潤に目を遣れば、雅紀に抱き着いているかずをニコニコして見つめていて。
きっと、嬉しかったよな。
…良かったな、潤。
俺のことも『やさしい』って言ってくれてた。
だけどこの作文を今日読んだのかと思うと、そこに居なくて良かったっていうことも若干書いてあったな…。
そんなことはとても言えないけど。
ほんとに、ありがとう…かず。
ぐずぐずと鼻を啜る雅紀を見上げてくすくす笑うかずに『授業の続きするぞ』と声を掛ける。
ソファから降りて再び潤の横に並んだのを見届けて、今度は潤に視線を合わせた。
「じゃあ次、櫻井潤くん!」
「はいっ」
かずに負けないくらい元気な声で返事をし、すうっと息を吸って用紙を顔の前に掲げた。