煩悩ラプソディ
第5章 愛情注ぐ理由はいらない/ON
「あ、またゲーム?相変わらずだね、ほんと」
ラグの上に散らかったゲーム機を見て、少し呆れたような声で大野さんが言う。
ソファテーブルに白い袋をゴトッと置き、キャップとショルダーバッグを適当にラグの上に置いた。
とりあえずキッチンに逃げる。
棚からグラスを出しながら、大野さんに背を向けて小さく息を吐く。
…うん、ちょっと落ち着こう。
ただ一緒に飲むだけよ。
それだけなんだから。
大野さんでしょ、相手は。
そうだよ…
大野さんだってば…。
待って…
俺、なにを期待してる!?
頭の中で考えれば考えるほど落ち着いてなんかいられない。
でも、こんなこと思ってるなんてあの人には絶対悟られたくない。
「…にの?何してんの?」
棚横の冷蔵庫の前で固まる俺を訝しげに思ったのか、ソファに座ったまま窺うように声をかける。
「あ、いや…てかさ、どしたの?今日、」
努めて冷静に、いつものように。
グラスを二つ持ってソファへ行き、テーブルにコトっと置いた。
ビニール袋の中の缶ビールやらおつまみやらをガサゴソ出していると、左側に視線を感じて手を止める。
見遣ると、大野さんがジッとこちらを見ていた。
「…なんですか」
「ん?あぁ、いや…別に」
明らかに何か言いたげな顔で、目を逸らした。
わかりやすいんだよな、こういうとこ。
「これ冷蔵庫入れとくね」
袋から缶ビールを全部出してその中の数本を抱え冷蔵庫に向かう時、目の端にやっぱりこちらをジッと見てる大野さんの気配を感じた。