煩悩ラプソディ
第5章 愛情注ぐ理由はいらない/ON
なんなのよもう…!
言いたいことあんならハッキリ言えよ!
冷蔵庫をパタンと閉めると、部屋に沈黙が広がった。
背中に目はないけど、痛いほど大野さんの視線を感じている。
「あの、」
「にの、」
この空気に居た堪れなくなって振り返りながら口を開くと、ほぼ同時に大野さんが俺の名前を呼んだ。
その顔は、切羽詰まったような…
あの日、トイレで見せた余裕のない表情だった。
「あ…早く、こっち来て飲もうよ」
明らかに張り付けた笑顔で軽く手招きされる。
さっきから様子がおかしい。
なに…?
なにを考えてんの?
ソファへ歩いていく間も、大野さんは俺をずっと見てる。
ソファに座る大野さんの隣は避け、ラグの上にあぐらをかいてソファにもたれかかった。
プルタブをプシュッと開けてグラスにビールを注ごうとすると。
「あぁ、いいよ、俺このまんまで」
そう言って俺の手から缶ビールを取り、今度は大野さんが手元の缶をプシュッと開けて俺に寄越した。
洗うの面倒じゃん、とか言ってるけど、
洗うの俺だから別にいんだけど。
「…ま、乾杯、」
「うん…乾杯、」
缶をコツンと合わせる。
いや、なんの乾杯だよこれ。
クイっと缶をあおると、大野さんがグビグビとビールを飲んでいく。
晒された喉仏が規則正しく動くのを見て、つい見惚れてしまった。
顔が熱くなりかけたから目を逸らしながらコクっとビールを飲むと、大野さんがふぅーっと息を吐いて缶をコトっと置いた。
え、まさか…
「ちょ、アンタ一気したの…!?」
「うん…飲んじゃった、」
口の端を手の甲でクイっと拭いて、ヘラッと笑ってそう言う。
そしてすぐに2本目を手に取りまたプシュッと軽い音を立てたかと思うと、グイッと缶をあおった。