煩悩ラプソディ
第5章 愛情注ぐ理由はいらない/ON
「ちょっ、どうしたのよ?
そんな急がないでいいじゃん、」
驚く暇もなく、目の前の大野さんがビールを一気していく。
俺の言葉は聞こえていないかのように、飲み干した缶をテーブルにカランっと置いた。
ちょっと…なんなの?
どうしちゃったのよ大野さん!
「うあ〜…やっぱキツ…」
両手で顔を覆いながら体を後ろに倒してもたれかかる。
それからしばらく動かなくなった。
そりゃあんな飲み方したらそうなるでしょうよ…。
この人、なにがしたいの!?
「ちょっと…ねぇ、大丈夫…?」
膝を揺すって問いかけてみる。
ピクリとも動かない。
「ねぇ、大野さん、」
言いながら立ち上がろうとすると、また膝にピリッとした痛みが走り大きな音を鳴らした。
「ぅあいてっ!」
カクンと膝が折れ、バランスを崩して大野さんの元に倒れこんでしまった。
「ぐあっ…!」
「あっ、ごめ…!」
胸元に額が直撃し、大野さんが悲鳴をあげる。
慌てて起き上がろうとするとグイッと腕を引かれて、また胸元に倒れこんだ。
するとぎゅうっと抱きしめられ、またそのまま動かなくなった。
少し熱い大野さんの体温が直に伝わって、心臓がドクドク鳴り出す。
ちょっと、なんなのもう…
やばいって…!
「…あのさ、」
耳元に小さく呟かれて、くすぐったくて肩に力が入った。