煩悩ラプソディ
第27章 青春にはまだ早い/OM
そいつがいきなり体を跳ねさせて盛大なくしゃみをしたもんだから、俺も一緒にびくっと跳ね上がる。
もぞもぞと動き出して、ゆっくりと半身を起こしたそいつ。
目を擦ってしばらくぼーっとしたかと思ったら、急にこちらに振り返って。
…っ!
初めて見たそいつの顔に、頭の上から何かが落ちてきたような衝撃が走った。
寝起きなのか潤ませた瞳は揺れていて、きれいに通った鼻筋の下にはぽってりした小さめの唇。
艶やかな黒髪が風にふわりとなびく様子にも、目が離せなくて。
…なんだこれ。
なにこの気持ち…
何も言えずただただそいつを呆然と見つめていると、合わさっていた目線が俺の手元に移り。
「ぁ、それ…」
小さく発した声と同時に、緩慢な動作で俺の手から学ランを取り上げる。
そして徐に起き上がり、『じゃあ』と言って立ち去ろうとした背中に慌てて声を掛けた。
「っ、待てよっ!」
とにかく引き留めたくてそう呼び掛ければ、そいつが肩を揺らして振り返る。
「ぁ…いや、その…なんで、ここに…」
引き留めたはいいものの、何を言ったらいいか分からず口籠ってしまい。
つーか俺、何をそんなにこいつに…
「なんでって…それはこっちのセリフでしょ。
お前誰?」
そう発したこいつは、眉を顰めて怪訝な顔を俺に向けていて。
「…ここ俺の場所なんだけど。勝手に昼寝しないでくれる?」
「…は?」
「もう来んなよ。じゃあ」
「…はっ?ちょ、おいっ!」
言うだけ言って話を終わらせようとしたから、立ち上がってそいつの腕を掴んだ。
「んだよそれっ!お前の場所なんて知るかよ!」
「いってぇな…離せよ、」
「つーか大体何で俺の横で寝てんだよ!
そもそもそっちがおかしいだろっ!」
「…ぎゃんぎゃんうるせぇなぁ、もう」
頭に血が昇りかけた俺を余所に、そいつがかったるそうに耳をほじりながら俺を見て。
「ここは、俺の場所なの。分かったか?一年」
少し下にある綺麗な瞳に覗き込まれ、そう吐き捨てるとそいつは去って行った。
取り残された俺は、この何とも言えない感情をどう表したらいいか分からなくなっていて。
あんな綺麗な顔した奴、今まで見たことなかった。
けど…
あんなヤな奴も見たことねぇ!