煩悩ラプソディ
第27章 青春にはまだ早い/OM
どうやら俺は、大変なことをしてしまったらしい。
久し振りにクラスメートに声を掛け、裏庭でのことを話してみたら。
そいつが青ざめながら俺に教えてくれた。
あの、顔だけ無駄に良い男の名は『大野智』といって。
ここの理事長の孫らしい。
謂わばここでは七光り的な扱いを受けていて、大野には生徒どころか教員ですら逆らえない風潮があるらしく。
入学してからその手の話には疎く、今の今までそんなこと知らなかった。
「なぁ松本、悪い事は言わないからさ、今すぐ謝ってきた方がいいぞ」
久し振りに話したクラスメートにさえ、そこまで心配されるなんて。
相当ヤバいことになってんじゃん、俺…
あ、でも。
これで退学になったとしたら、親もどうすることもできないよな。
だって理事長の孫だぜ?
そいつに歯向かった俺なんか、ソッコー退学にさせられるに決まってる。
…もしかしてこれは好都合かも。
「…分かった、謝ってくるわ」
不安げなクラスメートに短く礼を言うと、教室を出ていつものあの場所へ足を向けた。
***
来慣れたその場所には、思った通り大野が居た。
木陰の下、仰向けで後頭部に腕枕をして呑気に眠っている。
性懲りもなく俺がここに来れば、大野も嫌がるだろう。
大野に歯向かえば、俺はここから抜け出せるかもしれない。
とことん他力本願な自分に情けなくなるけど、こんなチャンス又とないはず。
芝生を静かに踏みながら近付いて、そーっと大野の顔を覗き込んだ。
規則正しい寝息を立てる穏やかなその寝顔に、また急にあの日の感情が蘇ってくる。
木漏れ日に照らされた長い睫毛も、少しだけ開いた小さな唇も。
こうして黙っていれば幾らでも見ていられるのに、なんて良からぬ発想が脳裏を過ぎる。
…って違う違う!
俺はこいつに嫌われなきゃならねぇんだ。
とりあえず…
ここに居座らないといけないと思い、未だ起きる気配のない大野の隣に寝転んでみた。
仰向けに眠る大野を、片肘を枕にしてじっと眺める。
横から見ると鼻の高さが際立って、更に端正な顔立ちになることを知って。
穏やかに上下する胸元の学ランは第二ボタンまで外され、白いシャツの襟から時折覗く鎖骨がやけに綺麗に見えた。